第32話 Side After

「ふむ……。これは、なんというか」


 黒いローブマントとフードで全身を覆った男性が、顎に手をあてて興味深そうに足元を這いずっているそれを眺める。


「……コロして……やる」


 右腕は肘から先が失われており、両足ともがねじれ曲がり何とか体と繋がっている。

 生きているのが不思議なほど、無事な部分が存在していない体でもなお、ブロアは生きていた。


「回収にとおもってきてみれば、こんなことになっているとは」


 東を収める。

 男はそのお告げの実行部隊の一人として東に派遣されたのだ。

 お告げの実現には様々な方法があるが、その中でも、「混乱と不安を生む」という方法は、男にとっては最も手っ取り早く効果的かつ、好みの方法であった。

 そしてその場合、人を使う方法が最もリスクが少ない。

 その「コマ」を探しているときに出会ったのが、欲ばかり大きい行商人と貴族のように悪知恵が回る、裏表が激しい男だった。

 男は彼らに少し言葉を吹き込んで、機会と情報、そして道具を提供したのだが、その結果はどうやら失敗のようだった。


「……女……も……アイ、ツらも」


 一体何が、彼をそこまで生きながらえさせるのか。

 数多くの人の死を見てきた男にとっても、目の前の男の生命力はすさまじいものだった。

 恐らくその原動力は、呻くように吐き出され続けている言葉に宿る復讐心だろう。


「――醜いですね」


 その生命力には感嘆するが、復讐心のみで動いているその姿は何とも醜くいものだ。


「その姿になった理由の一つでもありますから……救いを差し上げましょう」


 男はそう言うと腰の細剣レイピアを抜く。

 そして、這いつくばっているそれの首元に刃を添える。


「それでは……」


 そうして剣を上げて、振り下ろそうとしたところでその手が止まった。

 男の頭に妙案が浮かんだのだ。


「ああ、そういえば、いい使い道がありましたね。……まずは治療をしておきましょうか」


 男はそう呟くなり、細剣を媒介として魔法をくみ上げる。

 そして、無事な左手だけを残して、ブロアの四肢を斬りおとした。


「ッガアアアアアア」


 ブロアはその痛みに吠えるが、男は気にした様子を一切見せない。

 そのまま、止血のためその切断面に剣を押し当てると、肉の焼けるような嫌な臭いが立ち上がる。


「アアアアアアアアアアアア!!」


「これは、いい素体になりますね」


 ブロアの叫び声をBGMに、狂気を瞳に宿した男の治療はまだしばらく続くのだった。

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