第27話 紙一重
「間に合いました……」
マカナウィトルが無防備なグレンに向かって爪を振りかぶっていたのを目にした時はアリスも血の気が引いた。
幸いにも幼体がマカナウィトルに向けて鳴いたお陰で、その軌道がそれて、僅かにグレンの前髪を掠める程度で済んだ。
「本当に、良かった……。ってグレンさん!?」
アリスが安堵の息をついたのも束の間。グレンからふっと力が抜け、膝をつく。
そんなグレンの元へアリスは慌てて駆け寄ると、魔法を使い始めた。
「すぐ治療します」
「俺は大丈夫ですから……聖女様……」
「いえ、そうはいきません」
アリスはグレンの言葉を無視して空中に魔法陣を描いて行く。
「灯せ癒しの光よ『治療《ヒール》』」
そして、魔法陣の完成と共に、アリスが詠唱を行うと、柔らかい光が魔法陣から溢れ、グレンへと降り注いだ。
その光はグレンの無数の傷を少しずつ塞いでいくが、完全に回復する前に魔法陣が薄らいで、消えた。
「……すみませ。魔力が限界みたいです」
少し血の気の失せたアリスがグレンに謝る、とグレンは首を振った。
無理をしているのは自分だけではない。ほんの少しの気持ちでもありがたいものだ。
「かなりマシになりました。ありがとうございます。魔力ポーションをもってきていればよかったのですが……」
「いえ、この程度であれば聖女の頃から度々ありましたので、慣れたものです」
「無理はしないでくださいね」
そのグレンの言葉に、グレンさんも、と軽く笑みを浮かべて返したアリスが、すっとグレンから視線を外す。
その視線の先をグレンが追うと、そこにはマカナウィトルとそれにじゃれる幼体の姿があった。
幼体はマカナウィトルの攻撃的な部分を取り除いたような姿をしており、そのサイズ感も相まって同じ動物のようにはあまり見えない。
「グレンさん、ごめんなさい。治療が終わった合図を打つつもりだったのですが、あの子が案内すると言って走り出してしまったので」
「まるであの幼体と会話できる様な言い方ですが」
「会話と言うと語弊がありますが、近いことは出来ます。昔、仲が良かった子から教えてもらったんです」
「聖女様もできるんですね……」
動物と会話をすることが出来る。動物の気持ちを読み取ることができる。そういった特殊技能を持つ者がこの世界には居る。
いわゆる、精神感応《テレパシー》というやつだ。
人同士で、魔法が使える者であれば、比較的簡単に精神感応を行うことができるが、種族が違う場合はそうはいかず、特別な才能が必要なのだと、グレンは聞いたことがあった。
「でも、そこまで都合が良いものでもないのでしょう?」
グレンの問いかけにアリスは頷く。
「そうですね。治療を施したお陰だと思います」
そう言ってアリスはその二匹に目を向ける。
どんな心変わりか、マカナウィトルは幼体の相手をするばかりで、グレンたちのことは微塵も警戒していない。
そんな様子を見てアリスも微笑む。
「これで無事、解決ですね」
「いえ、聖女様。この一件の終わりを決めないといけません」
グレンの真剣な顔にアリスは目を細めた。
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