第22話 活路
グレンはアリスと共に森の中を疾走する。
マカナウィトルの幼体の怪我の具合を考えれば、成体はまだ、同じ場所かその近辺にいるはずだ。
今回の作戦の成功条件はマカナウィトルの幼体の治療と成体が無事でいること。
タイムリミットは幼体が力尽きるまでだ。
残された時間は少ない。
一体どんな手をつかって、行商人如きが幼体にあそこまでの傷をつけたのかは不明だが、出血量からしてその傷は軽くないはずだからだ。
――作戦はこうです。
そうやってグレンが作戦を伝えた後のアリスの呆れた顔にはグレンも何とも言えない気持ちになった。
グレンだってこんな作戦どうかしていると、発案者ながらに思う。
作戦はこうだ。
成体をまずは幼体から引き離した後、グレンが成体を相手取って時間を稼ぎ、その間にアリスが治療する。
いたってシンプルで簡単な内容だ。
——その相手がマカナウィトルで無ければ、だが。
マカナウィトルを冒険者教会の討伐難易度に当てはめるなら十段階のうち、五か六という所だ。
具体的には低級の冒険者では歯が立たず、中級なら五人、上級なら一人か二人なら討伐が可能と言う程度だ。
そんな難敵であるマカナウィトルを一対一で、しかも討伐ではなく、足止めをすると言う馬鹿げたことをグレンはやろうと言っているのだ。
そして問題は難易度だけにとどまらない。
まず、第一に昨夜の治療の影響もあって、アリスの状態が万全ではない。
治療時は平気そうなフリをしていたが、実際はかなり無理をしており、多くの魔力を使っていた。
そのため、魔力を節約するために、時間はかかってしまうが魔法陣と詠唱を使った形を取らざるを得なかった。
そして第二に、マカナウィトルを相手取るのに、グレンが使っている安い市販の剣では性能不足だということ。
既に一度やり合ってることもあって数回打ち合えばダメになるはずだ。
当然、都合よく代えの武器などある訳もなく、アリスに例の騎士剣を召喚してもらわなければならなかった。
特に剣のことを伝えた時にアリスの顔が呆れ顔から引き攣った表情になったのがグレンには印象的だった。
結局、騎士剣を召喚するのにまた多くの魔力を使ってしまった為、さらに治癒魔法を使うための時間が増えることとなった。
それに加えて、魔力を使いすぎている影響でアリスの体調が目に見えて悪くなった。
「勝率は……考えないでおくか」
右手に持った騎士剣の重みを感じながら、グレンは自嘲気味に呟く。
勝率が低くても、どのみちやるしかない。
これは集落の為でも、行商人の為でもない。自分達のためなのだ。
二人が新たな一歩を踏み出すために必要な通過儀礼だ。
アリスの精神面を考えれば、これを成し遂げなければ二人の旅はここで終わりだと言っても過言ではないだろう。
……気合を入れるか。
グレンの感覚がマカナウィトルの気配を捉える。
もうそう遠くない筈だ。
「アリス様。そろそろですよ」
「承知…-しました」
不調を感じさせるアリスの返答が返ってくる。
グレンは彼女なら大丈夫だと自分に言い聞かせ、戦うことに集中する。
幸い、呪いの影響を全く感じさせないほど、グレンの調子はすこぶる良かった。
そして、その調子の良さが身体能力の強化にも繋がり、その強化された感覚と目がマカナウィトルの姿を捉えた。
「では、アリス様手筈通り」
「はい!お気をつけて」
アリスの気配が消え失せたのを確認したと同時に、グレンは魔法を細心の注意を払って風の魔法を打ち出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます