第20話 泥沼
グレンの制止も間に合わずアリスの魔法はマカナウィトルに放たれた。
黒い
アリスの高い技術のおかげか、不幸にもその魔法はマカナウィトルの不意を完全についていた。
突如、魔力と魔法の存在にマカナウィトルが気が付いた時には、既にその礫はマカナウィトルとその子供の命を奪わんと飛来していた。
そして大量の礫がマカナウィトルに降り注ぎ、土煙が舞う。
「グ、グレンさん……」
何か決定的な間違いを犯してしまった気がする。
アリスは震えた声で、そう彼の名前を呼ぶと振り返った。
そして、振り返った先、ゆっくりと歩みを進めていたのは、ひどく険しい表情を浮かべたグレンの姿だ。
「ご、ごめんなさい……」
その声と怯えの浮かんだ表情には聖女らしさなどどこにもなく、ただのか弱い少女にしか見えない。
そんなアリスの謝罪にグレンは応えなかった。
ただただ、険しい表情でアリスの方を見たままゆっくり歩みを進める。
そして、その歩みを止めないままグレンがゆっくり剣を抜いた。
「私は……」
「動くな……」
アリスの言葉を酷く冷たく、低いグレンの声が遮る。
グレンの剣に魔力が注ぎ込まれるのをアリスは感じ取り、その体を固くする。
そして、二人の距離が手を伸ばせば届きそうなほどに近づいた所でグレンはぐっと足に力を入れた。
「ッ……」
最悪を想定したアリスは、しかし、逃げ出すことをせず体にぎゅっと力をいれて、目を強くつむる。
ただただ、訪れるであろう鉄の冷たさを恐怖の中で待った。
「ぁ……」
やがて訪れた感触は、思っていたものとは異なった。
強い衝撃とともに、体を押し飛ばされる。
「うぁっ……」
まともに受け身をとれず、アリスは地面に体を打ち付けたことで、肺から息が漏れる。
「退くぞ!!」
予想とは違う痛みと未だに自分が生きていることに混乱しているアリスの耳に、グレンの切羽詰まった声が届く。
「どういう……」
アリスが体を起こしながらその声の方向に顔を向けると、そこにはマカナウィトルが振り下ろした前足を剣で受け止めているグレンの姿があった。
グレンは両手で剣を支えることで何とか、マカナウィトルの力に対抗しているが、押されているのは明白だ。
「『風よ』!!」
今までの経験が活きたのか、アリスは反射的に魔法を放っていた。
無詠唱で放たれたアリスの魔法をマカナウィトルが後方に大きく飛び退くことで回避し、その瞬間にグレンもアリスの方へと退避する。
「目くらましの魔法を!」
そして、グレンは間髪いれず半身を起こしたアリスへと指示を飛ばす。
頭の回転が戻ってきていたアリスはすぐさま土煙を巻き上げる魔法を使う
「『砂塵』」
アリスの魔法と共に強烈な風が舞い上がるように吹き上がり、当たりに土埃は巻き散らかし、マカナウィトルと二人の間を遮る。
「『影隠れ』」
グレンもその魔法に合わせるようにして、隠密系の魔法を使う。
そして、アリスへと駆け寄ってその手を取ると、引っ張り上げて立たせる。
「行くぞ!」
「は、はい」
駆け出したグレンの後を、アリスは慌てて追った。
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