第18話 厄介事

 ……なんでこんな面倒ごとばかり。


 グレンは心の中で毒づく。

 あの依頼を受けてからというもの、悪いこと続きだ。


 正直な所、あの集落が滅んだとして、グレンは心が痛んでも、気に病むという程ではない。

 今頃になってマカナウィトルの幼体を狙うような人間がほかの違法行為をやっていないとはグレンには思えない。そして、そんな人間と親密な様子であった集落の長も同様だ。

 グレンから言わせれば、因果応報であるといえる。


 それに、今回の件を丸く収める方法はほとんどないというのが何よりの理由だ。

 マカナウィトルの「復讐」を止めるにはマカナウィトルを討伐するしかない。

 しかし、特例はあるにせよ、マカナウィトルを殺める行為は厳格に禁止されているし、何より、マカナウィトルには一切の罪が無く、本当の意味での被害者側だ。

 重大な違法行為をして、罪のない動物を殺めてまでする価値がこの集落にあるのか、と言われると、グレンは無いと思ってしまうわけだ。


 ただ、ここ簡単に引き下がれない理由に「アリス」の存在があって、それがさらに話をややこしくしている。

 恐らく、アリスはグレンのように割り切れないだろうし、うまく物事を解決しないとしこりが残る可能性がある。


 断片的な情報しか持っていないアリスにとってはマカナウィトルこそ悪であるはずで、現状はその討伐をしようとしているはずだ。

 アリスが一体どのようにして、魔獣――マカナウィトルの正体を突き止め、その位置を突き止めるつもりなのかは不明だが、何か事が起こる前に彼女を見つけて止めるしかない。

 問題の解決はその後だ。


「やるか……」


 グレン小さく呟いた。

 彼女を見つけるには魔法を使うしかない。

 今のグレンにとって、魔法を使うことはかなりのリスクになるのだが、背に腹は代えられない。

 グレンは剣を地面に置いて跪くと、左の手のひらを地面に向けるようにして広げ、目を閉じる。

 可能な限り魔法に集中するために、それ以外の情報をカットし、詠唱を行うことで負担は軽減できる。

 グレンが使う探知魔法は、使い慣れているし、難しいものではないが、後のことを考えると丁寧にするに越したことはなかった。


「――波よ、響きたまえ」


 囁くようなグレンの詠唱と共にグレンの手のひらに魔法陣が広がる。


「『探知』」


 そして詠唱が終わると同時に、魔法陣から一滴の水滴が地面に落ちる。

 その水滴が地面に落ちると、まるで波紋が広がるようにして、グレンの頭の中に周囲の映像が広がっていった。


「見つけた……」


 そして、グレンは聖女らし存在を見つけた。

 彼女は幸いにもマカナウィトルには気が付いていないようではあり、その距離も僅かに離れている。

 今の間に止めるしかない。


「っ……」


 立ち上がろうとしたグレンをひどい頭痛が襲い、よろめいて地面に手をついた。


「っ……。いけるか……」


 しかし、今回は幸いにも二度目は訪れず、グレンは立ち上がると聖女がいた方向へと足を進める。

 グレンの探知は鮮明な映像を得られるわけではなく、ぼんやりと情報を得られるに過ぎない

 そのため、聖女がどんな様子で、どこに向かっているのかまでは分からないのだ。


 グレンは焦る心を落ち着かせて、慎重に、しかし、なるべく早くその足を聖女に向った進めた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る