第17話 刃竜

 ……アレのどこが魔獣だ!


 グレンは心の中で盛大に舌打ちをした。


 マカナウィトル--別名、刃竜じんりゅうは大陸に生息している動物の中でも珍しく、冒険者協会だけでなく、多くの国から禁猟種に指定されている動物だ。大陸全土から保護されていると言って過言ではない。


 そんな手厚い扱いになっている理由は大きく三つある。

 一つは、過去の乱獲によって個体数が激減していること。

 二つ目が、人類に害のない動物であるということ。刃竜は凶暴な見た目に反して、非常に温厚で、それに加えて知能が高い動物だ。余計な手出しをしなければ、害になることは無い。

 三つ目は、怒らせると非常に厄介だということ。

 名前に竜がついているだけあり、マカナウィトルは並の冒険者では歯が立たない程の力を持っている。

 彼らは知能が高い為、「復讐」という行為を行うのだ。

 乱獲があった時期は、その復讐で小さな町、村、集落などが度々襲われ、結構な被害が出た、というのは有名な話だ。

 結局、地方を治める多くの貴族達から泣きが入り、現在の様な形に落ち着いた。


 そんな訳で、マカナウィトルと実際に出会うことはなくても、その名前と姿だけは知っていると言う者は少なく無い。

 冒険者や商人などは確実に知っておかないといけない。

 万が一、狩猟したり、その商品を取り扱ったりすれば、重い刑罰が下るためだ。


 それに加え、一昔前こそ、その魔力の親和性が高さから、魔法具の触媒の一つとして重宝されたマカナウィトルの素材だが、代用品が多くある今となっては、わざわざそれを選ぶほどのもでは無い。


「なるほど幼体か」


 グレンはマカナウィトルの足元にチラッと見えた、その幼体の姿を見つけた。


「未だに取ろうと考えるバカがいるとはな……」


 グレンは呆れを隠しきれなかった。

 実は乱獲の対象になったのは、マカナウィトルの成体ではなく、幼体だった。

 幼体は成体と比べて、比べ物にならない程弱い生物なのに対して、素材の質は変わらないため、親と引き離して、その間に幼体だけを狩ると言う手法が確立されてしまった訳だ。


 恐らく商人はその事を何処かで知って、幼体に手を出したのだろう。

 それで、成体に気付かれて、手痛いしっぺ返しを食らった訳だ。


 ……まて。何故、マカナウィトルは承認を逃した?


 ここで、グレンの脳裏に最悪のシナリオがよぎった。

 それを確認すべく、グレンは改めて幼体を細やかに観察し、そして天を仰いだ。


「本当に何をやってくれてるんだ……」


 思わず声に漏らしてしまうほど、グレンの胸中は呆れと怒りで埋め尽くされた。


 気が立っている様子の成体の足的に蹲っている幼体は怪我をしていた。

 しかも、それなりに離れた距離にいるグレンからも出血が確認できたと言うことは、軽い怪我ではなさそうだった。


 マカナウィトルは「復讐」をする生き物だ。

 そして、過去に大問題になったマカナウィトルの「復讐」の原因は、幼体の乱獲だったのだ。


 つまり、このまま何もしなければ、あの集落は滅ぶ未来にあると言うことに、グレンは気がついてしまったのだ。

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