第13話 価値観
「助かりました……」
ベッドに横たわる穏やかな顔を見て、長というには少し若い男性が頭を下げた。
「いえ、私に出来るのこの程度でしかありませんので」
そう言って微笑むアリスにグレンは息を吐く。
…どこが、この程度なんだか。
半ば押し掛ける形で怪我をした行商人の元に向かった二人だが、ベッドに寝かされていた人物は想像していたよりもかなり若く、青年といって過言ではない年齢だった。
その青年の容態は非常に悪く、青白い顔と血に濡れて乾いていない包帯からは重症というよりも、死にかけと言った方が正しいのでは無いだろうか、と思える状態だった。
そんな状況でアリスがとった行動は迅速だった。
アリスはすぐさま青年に巻かれた包帯を剥ぐと、腹部についた大きな傷に魔法を使っていく。
「すごい……」
長から驚きの声が漏れる。
アリスの魔法は奇跡と呼んで過言ではないものだった。
アリスが手をかざすと、患部に魔法陣が現れ、魔法陣が鼓動するように光るのに合わせて、徐々に傷跡が塞がっていくのだ。
「ふぅ……。他の傷も手当しますね」
腹部の一番大きな傷が癒えるとアリスは額の汗を拭った。
そして、そのまま残りの傷を次々に魔法で癒していった。
アリスが治療を始めてほんの数分で、薄らと滲み続けていた血も全て止まり、青年の血色もずいぶんとよくなっていた。
グレンはこれまで色々と回復魔法やら治癒魔法やらを見てきたし、実際に使ってもらったこともあるが、これほど即効性と効果があるものは初めて見た。
「これで目ぼしい傷は全部だと思います。ただ、失った血は完全に戻っていませんし、体力も消耗していると思いますので、しばらくは休養を取るように言ってくださいね」
アリスは優しい笑みを浮かべながら、長にそう告げる。
「本当にどう、御礼をすればいいやら……」
「いえ、御礼は……」
「一晩の宿と今晩の食事、そして旅の物資を少し頂くのを対価にということではどうでしょう?」
長の御礼の申し出をアリスが断ろうとしたところで、グレンがアリスの前にすっと出てきてその言葉を遮った。
「そんなことでよければ、勿論です。宜しければ、湯浴みの用意などもしましょうか?」
「助かります。湯浴みの用意は道具だけお貸しいただければあとは自分達でやりますので」
「分かりました。それでは、後ほどお持ちしますね」
唖然とするアリスを横目にグレンと長の話はどんどんと進み、あっという間に話はまとまった。
「それでは、本日は私たちもここで失礼しますね」
「本当にありがとうございました。また、何かあれば、気軽に申し付けください」
「はい。それでは、アリス様行きましょう」
「え?は、はい」
固まったままのアリスに声をかけて、グレンはそのままそくささと長の家を後にし、アリスは慌ててグレンの後を追った。
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