美女と猛獣
第11話 冒険
「のどかなものですね」
そろそろ夕方に差し掛かろうという頃。畑を囲う木製の柵に手をついてもたれ掛かったアリスは辺りを見回すとのんびりと呟いた。
アリスの周囲には幾つかのこじんまりした木製の建屋が並んでいる。
恐らく総戸数でも五十に届くか届かないか、という数であるだろう。
規模としては村というよりは集落の方が近く、のんびりとした空気が流れている。
この名もなき集落は、港町ロアシチを出てから一週間ほどで二人が最初に辿り着いた場所だった。
創神教の聖地かつ、その総本山でもあるレプカノン聖教国は大陸の西に位置する。
その為、東側では創神教の信仰は薄く、この集落も同様でその気配は見えなかった。
そのおかげで、アリスはのんびりと集落の子供たちが遊んでいる姿を眺めていられるわけだ。
「私としてはもう少し仲良くしたいのですけどね……」
無邪気に遊ぶ男の子と女の子を視界に収めながらアリスは呟く。
誰と、と聞かれればもちろんグレンとだ。
現状、グレンとアリスの仲は護衛対象と護衛という立場を超えることはなく、非常にビジネスライクでドライ関係性だ。
アリスとしては、これから長い付き合いになる予定なのだから、もう少し仲を深めたいという気持ちが強い。
しかし、それはアリスの一方的な望みでグレンがそうは思っていないことは想像に難くない。
なにせ、グレンがアリスの護衛になったのもの、アリスによる強引な勧誘がきっかけだ。
好感度としては限りなく低いところからのスタートであることは事実だろう。
その一方で、アリスがグレンに抱く感情はアリス自身としても予想外だ。
アリスは自身が今後旅をしていく中で、その相棒になり得るのはグレン位しかいないと思ってしまっている。
とは言っても、それが色恋沙汰のそれから来ている訳ではないことはアリスもなんとなく自覚している。むしろ、それよりも、もっとタチの悪いものだろうとすら思っている。
……どちらかというと、「憧れ」と「執着」でしょうか。
アリスは自分の子供っぽさに少し呆れながらその感情の正体に当てを付ける。
物心ついたときから聖女になる為だけに人生を費やしてきたアリスは「冒険」というものに憧れを抱いていた。
そしてそんなアリスに終ぞ冒険の機会は訪れることなく、その生を終えるというところで出会ったのがグレンだ。
彼が背負う「祝福」に目を惹かれ、共に戦い、命を助けられ、そして創神教に追われるという同じ境遇にいる。
まさに旅の始まりにはうってつけであり、これを「冒険」と言わずに何というのだ、ということだ。
加えて、追い詰められて、半ばと諦めていた所にこんな「出会い」を与えられてはもう一度夢を見たくなっても仕方ない。
つまり自分は「冒険」に憧れて、その相棒になりうるグレンに「執着」してしまったのだと、アリスは結論付けた。
そんなわけで、アリスがまず取り組んだことは、グレンとしっかりコミュニケーションを取る事だった。
そのため、この集落に辿り着くまでの一週間、アリスは極力グレンと会話を試みようとしたが、その試みはうまくいかなかった。
というのも、コミュニケーションとは名ばかりで、ひたすらアリスが話して、グレンは相槌を打つか、質問に答えるばかりになっていたからだ。
元からお喋り気質のアリスではあったが、流石に後半はグレンの薄い反応に心が折れかかった。
結局、最後まで折れることなく話し続けたアリスではあったが、グレンについて知ったことは、この辺りの生まれではない事となった。
「聖女様、話がつきました」
アリスがグレンとの関係性に頭を悩ませているところで、そんなことを言いながらグレンが話し合いから帰ってきた。
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