第3話 陰謀
グレンは半年前から不意にひどい胸の痛みと幻聴が起こるようになっていた。
その痛みの原因ははっきりとしているが、その理由は未だに分かってはいない。
普段であれば気を失うほどではないのだが、流石に今回ほどの痛みは今までに経験をしたことが無かった。
「っはぁ……はぁ……」
どれ位たっただろうか。ようやく痛みと幻聴が収まり、すこし眩暈がする中グレンはなんとか立ち上がる。服は傷みを耐えたことによる汗で濡れ、額には脂汗が浮かんでいた。
グレンは息を吐くと、額の脂汗を拭いあたりを見回す。
いつの間にか周囲は静けさに満ちており、人だったものの残骸とただただ血なまぐさい匂いが残っているのみとなった。
この死体の数を見るに、痛みに耐えていた間にやられなかったのは幸運以外の何物でもないだろう。
「ほぉ?本当にいるとはな。生き残りが」
自分の悪運にグレンが感謝していると、ふいに背後からそんな言葉が聞こえてくる。
振り返ったグレンの視線の先にいたのは、一人の山賊だ。
「不運だな。せっかく生き残ったというのに」
周辺の有様をぐるっと見渡した山賊がそんなことを言って鞘から剣を抜き、グレンの方へと歩みを進める。
その姿と言動に違和感を覚えたグレンは山賊へと問いかける
「お前、なにもんだ」
「みて分からないのか?どう見ても山賊だろうよ」
「俺はそんなに小奇麗な口調と装備の山賊なんて見たことないけどな」
山賊が纏っているのは一見すると確かに襤褸切れだ。しかし、よく見ると質の良い生地を切り裂いただけのものでしかない。
そして、極め付けはその口調だ。そんな綺麗な言葉遣いをする山賊なんてグレンは見たことが無かった。
「へぇ、下級冒険者の割には中々いい目をしてるじゃないか」
そんなグレンの問いかけに山賊もどきは面白そうに眼を見開く。
「褒美とこれから死にゆく者への餞別として、俺たちの目的だけ教えてやるよ」
「それはありがたいね」
随分と上から目線な山賊もどきにグレンはあきれた様子でそう返す。
そんなグレンの態度を気にもせず、山賊は足を進めながらも話を続ける。
「俺たちはな、お前らなんかでは到底お近づきになれないようなお偉いさんからの依頼でここにきてるんだよ。なんだと思う?」
「さぁな。さっぱりだ」
「そうだろうな。教えてやるよ。聞き逃すなよ」
山賊もどきはグレンからほんの数メートル先で立ち止まると、剣を構える。
そして、片足を下げ、僅かに踏ん張ると口を開いた。
「聖女殺しだ」
その言葉と共に山賊もどきは山賊らしからぬスピードでグレンとの間合いを詰める。
そして、未だに剣を構えられてもいない隙だらけのグレンに剣を振りかぶった。
「……へ?」
間抜けな声と共に、山賊もどきの剣が地に落ちた。
肉を断ち切る感触が無い。
悲鳴も聞こえない。
「へ?」
剣を握る感触が無い。
山賊が自らの腕を眺めると、その先ついているはずの手首から先が綺麗に斬りおとされていた。
「お、おれの……」
「情報ありがとうな」
そして世界が歪んで、視界ズレ落ちていく。
「……手が」
首を落とされたことさえ理解することもなく、山賊もどきの体と頭は地面に転がった。
「胡散臭いとは思っていたけど、まさか聖女殺しとはな……」
グレンは先ほど助けた聖女の顔を思い浮かべながら呟く。
「
ただし、基本的には信仰に背いたり、違法行為に手を出したり、所謂堕ちた聖女を処分する場合のみに行われるため、稀にしか行われないとのことだ。
話によれば、聖女と一言で言っても修道女からなりあがった聖女から、功績を讃えられ聖女になった者、生まれながらにして聖女と定められた者まで、その経緯は様々らしい。
つまり、神の遣いとは言っても、れっきとした人間であること間違いないわけで、そうなると堕ちるものが出てくるのも仕方ない様に思える。
「ただ、あの子がそんなことするようには見えなかったけど……」
そう呟くも、出会って間も無い自分では見抜けようもないな、とグレンは自嘲気味に笑う。
「ま、答えはこの先にあるか」
そしてグレンが見つめる先で待っていたのは、その聖女が騎士と冒険者、そして山賊達をまとめて蹂躙している光景だった。
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