宝探し
公園の脇に車を停める。今日は雨が上がり、曇天だ。乾き切っていない遊具で子どもが無邪気に遊んでいる。
(さて、用具入れは……)
男性トイレと女性トイレの入り口の間に用具入れがあった。
「これか」
簡単な戸を開けると清掃用具に紛れて小振りのアタッシュケースが置いてある。
「結構重いな」
車へ運び助手席にケースを置く。タバコに火をつけた。
「ん?」
先ほどのトイレの辺りに昨日の男が見えた。
「見つかると面倒だな」
車を発進させようとすると、窓が叩かれる。思わぬ事態に俺は驚いたが、窓の外を見ると金髪の前髪をかきあげた、赤いアイシャドウの派手な男の顔があった。
「何だ? 駐車違反はしてないぞ」
パワーウィンドウを開け、外に立っている男と話す。白い派手なスリーピーススーツを着た長身の男は、東雲祥貴(しののめしょうき)だった。ユートピアの常連で、29歳ながら刑事として活躍している若きエースで、一々大袈裟な言動が気に入らない奴だ。
「やあ、綿奈部くん! 休憩かい?」
「まあそんなとこだな。何の用だ? 忙しいから行くぞ?」
「忙しいって、休憩していたんだろう?」
祥貴は大袈裟に両手を伸ばして口を開く。
「訂正する。これから忙しくなるんだ。世間話してる暇はない。もう行くぞ?」
昨日の男がこちらに気づいた様子はない。俺はシフトレバーに手をかける。
「待ってくれ、金髪のショートの女の子で派手なピアスをした女の子を知らないかい? 服装は黒色のものを好んで着ているみたいなんだ」
(こいつもアンナを探してるのか?)
「そんな奴この辺りにいくらでもいるんじゃないのか? 重大犯罪の多いこの街でそんなのに構ってるとは刑事様は暇なんだな」
「千葉くんに頼まれてね、パトロールのついでに探してるんだ。何でも昨夜この公園でタクシーに乗り込んだ後に消息が分からないらしい」
皮肉は無視された。千葉が知り合いに手当たり次第連絡を取っていることがわかる。しかし、これからこの街から逃がす女の情報を出す訳にもいかない。
「俺のとこにも千葉から連絡来たが知らねえな」
「そうかい。悪かったね、呼び止めてしまって」
「ああ、何か分かったら連絡してやるよ」
「ありがとう! 綿奈部くん! ではまた!」
俺は手を振り、パワーウィンドウのスイッチを入れ、窓を閉め発進した。
「しかし、面倒な女だな……匿ってるのがバレる前に逃がすか」
俺はデバイスを操作しアンナとの通話を試みた。数コール後、女の声が聞こえてくる。
『はい』
「アンナか? アタッシュケースを回収した。今夜出発だ」
『もう準備ができたのですか? 中身は無事でしょうか?』
「とりあえず街から出して、仮の寝床に案内する。ちゃんとした物件は後からだ。中身は……重いから入ってるんじゃねえのか? 鍵付いてるから分からねえよ」
アタッシュケースにはダイヤル式の鍵が付いていた。
『そうですね。ありがとうございます』
「そうだな……21時に迎えに行く」
『21時ですね? わかりました』
「ああ、じゃあまた」
『はい』
通話機能を切り、自宅へ向かう。――何か引っ掛かるが、まあいい。早いとこ終わらせてゆっくりガラクタ弄りでもしたい気分だ。
「帰ったら寝るか」
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