Incoming call
ソファーで目が覚めた俺は手続きを進めていく。新しい戸籍づくりも問題ない。あとはどの物件にするか……。左腕につけたデバイスから着信音が鳴る。相手は千葉恵吾。昨日俺がアンナを押し付けようとした、何でも屋紛いの男だ。
「なんだ? 厄介事なら間に合ってるぞ」
『今暇?』
「暇じゃねえ。仕事中だ」
『仕事熱心やなあ。あのさ、後で手伝って欲しいことあんねんけど』
「今日は無理だ。切るぞ?」
『あー、待って! 人探し手伝って欲しいねん! 金髪ショートでピアスいっぱいつけた女の子探して欲しいねん! 服装は黒っぽくてゴシック的な?』
……アンナと特徴が合致するな。
「なぜだ?」
『依頼人の男が探しとってさあ。目撃情報が全然上がってこうへんねん。早よ片付けて遊びに行きたいねんけどさあ』
「……知らん。俺は忙しい。刑事の東雲にでも相談しろ。じゃあな」
俺はデバイスの通話機能を切った。アンナのことは千葉に隠すこともなかったが、依頼人の情報を流すこともない。それに千葉の依頼主が男だということも気になった。昨日のストーカーなら会わせる訳にはいかない。再びデバイスの着信音が鳴る。千葉がしつこく掛けて来たのだろう。
「あのなあ! 今日は忙しいって言ってんだろうが!」
『ごめんなさい。後にしましょうか?』
電話口の声はアンナだった。
「アンナか、悪い別のしつこい電話かと思ってな。何だ?」
『すみません。昨日の公園に取りに行きたいものがあって……』
「昨日の公園に? 何か落としたのか? それならストーカーが持ってったんじゃないのか? それに外に出るのはやめとけ。ストーカーがお前のこと探してるみたいだぞ?」
『そうなんですか? ストーカーが持っていくのはないと思います。公衆トイレに隠したので』
昨日の公園には遊具の他に、水飲み場と公衆トイレが併設されていた。
「トイレに隠した? 何でまたそんなところに」
『後をつけられていたのに気づいて、咄嗟に隠したんです。大事なものだったので……』
「今外を出歩くのは避けたほうがいい」
『それなら、あたしの代わりに取りに行ってもらえませんか?』
「俺が?」
『追加の報酬を払います。金銭的な価値のあるものなので、それがあれば全ての報酬を渡せますし』
……正直面倒極まりない。が、ただ働きになるのはごめんだ。報酬の当てがあるなら回収するに越したことはない。
「いいだろう。どんなものなんだ?」
『鍵付きのアタッシュケースです。清掃用具が入っている場所にあるはずです』
「アタッシュケース? 現金でも入ってるのか?」
『中身については言いたくありません……』
「わかった。昨日の公園のトイレの清掃用具入れのアタッシュケースだな? 今から見てくる。また連絡する」
『ありがとうございます』
電話を切り、身支度を整える。自宅から公園まではそう遠くない。
「行くか」
昨日のタクシーではなく、黒いバンに乗り、車のエンジンをかけ、ガレージを後にした。
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