008-魔法使いの決闘
メリアが一行からはぐれてしまったのは、魔法大学に入ってすぐのことだった。
それに気付いたザガは、ロベルトに一言かけてからメリアを探しに行こうとしたが、ロベルトは魔法大学の副校長と話し込んでいた。
ロベルトが察してくれると信じて、ザガは何も言わずにメリアを探しに行った。
ザガがメリアを見つけたのは、魔法大学の広大な敷地にいくつかある演習場の中でも、対人技術を学ぶ事に特化した演習場、いわば決闘場だった。
しかも、メリアはなぜか決闘場で他の魔法大学の学生と対峙していた。
メリアと同い年くらいの少女のようだが、何か喧嘩でもしてしまったのだろうか。
一体どうなってるんだと疑問に思いながら、ザガは決闘場の近くのベンチに腰掛け、ひとまず様子を見守る事にした。
メリアがどんな魔法を使うのか、興味があったのだ。
◆
「あたしが勝ったらあなたはさっきの言葉を取り消し、リセ先輩に詫びる!! いいわね!!」
「私が勝ったらどうなるの?」
「……あなたの言うことをひとつ聞いてあげる!! でもあたしは負けない!!」
「いいよ、この勝負、乗ってあげる」
元々、尊敬するリセを軽んじられたと思ったレインがメリアに決闘を吹っかけたのだが、メリアにとってもこの決闘は望むところだった。
メリアもまた、自分の姉を軽んじられるのは許せなかったからだ。
そのため、敬語で接するのはもうやめていた。
それに、魔法大学の学生と比べ、自分がどれくらいの実力を持っているのか、知ってみたいという気持ちもあった。
並の学生相手には負けないだろうと言う根拠のない自信を、確かなものにしたかった。
「魔法使いなら結界石は持ってるわね? 互いに小粒の結界石を一つ持って、それが砕かれたら負けよ!!」
結界石というのは魔法石を加工して作る道具で、魔力を込める事で術者の周りに簡単な結界を生成できる。
魔法使いにとって、手軽に身を守れる便利な道具だが使い捨てで、結界が砕かれると共に石も砕ける。
それでいて高価なため、余程の富豪以外は大事な時にしか使わない。
ただし、今回の決闘で使われる小粒の結界石は、通常サイズの結界石を作る時に出来てしまう端材から作られたもので、廉価で手に入る。
その代わりに、投げられた石を一度弾くだけで砕けてしまうため、防御のためではなく、もっぱら今回の決闘のように被弾の判定を行うために使用される。
「ごめんなさい。今、結界石の持ち合わせがないの。でも、私が勝つからこのまま初めてもらっていいわよ」
メリアが家から持ってきた結界石は、全て家出の過程で砕けてしまった。
一番大きな結界石も、空から地上に墜落した時粉々になった。
このまま始めると言い出したメリアに、レインは目を丸くし、またすぐに怒り出した。
「良くないわよ!! あたしに丸腰の相手を攻撃しろって言うの!? ほら、受け取りなさい!!」
そう言ってレインは小粒の結界石をメリアに投げ渡した。
「ありがと。フェアなのね」
「決闘ってのはお互いが納得しなきゃ意味がないの。これはあたしが納得するためなんだから!! ほら、早く構えなさい!!」
「それは同意。納得、大事だよね」
そう言ってレインとメリアは互いに杖を向ける。
レインの顔はわずかに紅潮しているが、照れによるものかさっきからの怒りによるものかは定かではない。
十メートルほどの距離を挟んで向かい合った二人は、同時に呪文を唱える。
「「導きの木よ。『力を』『束ね』『解き放て』!!」」
二人の杖先から薄紅色の光を纏った魔力の弾が射出され、決闘場の中央で衝突した。
衝突した魔力の弾は互いに勢いを相殺し、その場に飛び散った。
しかし、メリアの弾の方が原型を保っている。
初撃は私の勝ち、そう思って一瞬ニヤリとしたメリアだが、すぐにレインの狙いに気付いて身を屈めた。
飛び散った魔力弾は、通常ならそのまますぐに消滅する。だがレインの魔力弾は、そのまま消えずに細かな弾幕となってメリアを襲った。
メリアはすぐに屈み、魔力の弾幕は彼女の頭上を通り抜けていった。
「いい反応してるじゃない!! 初見でそれをかわした同年代は初めて見たわ!!」
「おしゃべりしてる暇なんてあるの?」
魔法を使うためには、基本的に呪文を唱える必要がある。
呪文によって“導きの木”へと接続し、そこに刻まれた魔法を再現する。
このプロセスによって、魔法使いは呪文を唱えて魔力を消費して、魔法を使用できる。
そして呪文を唱えるためには、当然口を使う必要がある。
魔法使い同士の決闘において、おしゃべりをするのは無駄な隙を晒す行為でしかない。
この隙を突くため、メリアは呪文を唱えながらダッシュしてレインに接近した。
「導きの木よ。『力を』――」
「甘いわ!!」
ダッシュするメリアに向けてレインが杖を向けた。
呪文を先に唱え始めてる分、私の方が早い――!!
しかしまたしても、メリアは意表をつかれる事になる。
レインが呪文を唱えていないにも関わらず、レインの背後から水の球体が四つ現れ、杖が向けられた方向――メリアに向かって発射された。
「なっ……!!」
「これが私の無詠唱魔法よ!!」
呪文を唱えずに魔法を使う、例外的方法がいくつかある。
一つは、道具を使う方法。
魔力を通すことで、即座にその道具ごとの魔法を発動できる道具がある。
結界石はその代表例だ。
そしてもう一つの方法、無詠唱魔法。
詠唱魔法は“導きの木”に接続し、そこに刻まれた魔法の情報――性質や形状、量など、魔力をどのように操作して魔法とするかの情報を取得して、それを自動的に再現できる。
無詠唱魔法は、“導きの木”に接続しない。
魔力の操作を全て術者本人が制御する必要があり、詠唱では簡単な魔法であっても無詠唱では難易度が跳ね上がる。
しかし、呪文を唱えずとも即座に魔法を発動できるというのは、詠唱魔法では不可能な多大なアドバンテージとなる。
メリアはまさかレインが無詠唱魔法を使ってくるとは思わず、完全に自分が先に魔法を撃てるものと考え行動していた。
そのため、レインの無詠唱魔法――四発の水弾に対して、回避する事も防御魔法を唱える事も今更できない。
それでも咄嗟に、足元に向け杖を構える。
「遅いわ!! あたしの水弾の方が早い!!」
四つの水弾は輪を描くように飛んでいき、メリアを囲い逃げ場を塞ぎながら接近し、まさに着弾しようとしていた。
その次の瞬間、メリアの周りの地面から、蒼い炎が吹き出しメリアを覆った。蒼炎の壁に突っ込んだ四つの水弾は、ジュッという音と共に蒸発した。
「うそっ、まさか……!!」
レインは驚きを隠せず後ずさりした。
「無詠唱魔法は、あなただけのものじゃない!!」
蒼炎の壁が消え、中からメリアが現れる。
メリアの持つ杖は真っ直ぐレインに向けられ、杖先からは蒼炎の弾が今にも発射されようとしていた。
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