第49話 11話 勧誘

------------------------------------------------------------


「さっきはありがとうポルコさん。今チハヤ、子供たちのところに行ってたから対処出来なくて……」

「あぁ、キョウヤから聞いてるよ、孤児たち拾ったって。あ、ママ、お酌頼んでいいかい?」

「もう、今日は特別ね」

「やった」

 ミスティーは店のオーナーになってから、誰かにお酌することはない。話し相手になるだけの存在。

 なので、彼女の気まぐれや何か特別なとき、お酌をされた者は幸運だと、常連の客の間で思われていた。

「やっぱママに入れてもらってた酒は最高だねぇ」

「ポルコさんくらいよ。私がお酌するなんて」

「俺自身、運はいい方だと思ってるよ」


「悪い、話し途中に」

「ほんとに悪いな」

「だからゴメンて」

 ミスティーとの楽しい時間を邪魔されて、ポルコは邪魔者のレイジを睨む。

「ミスティー、さっきは悪かったな。対応できなくて」

「しょうがないわよ、レイジたちはステージにいたんだから。チハヤがちょうど居なかったのも運が悪かったわ」

「ポルコも、さっきはありがとう。助かった」

「お礼はママからお酌してもらってるからいいよ、それより、シッシッ」

「そう邪険にすんなよ」

 レイジを野良犬かなんかを追い払うようにシッシと手を払う。


「いきなりだがポルコ、教師になってみないか?」

「ほんとにいきなりだな……」

 俺はポルコを勧誘した。

「教師って、あの子たちの?」

「半分はそうだが、半分は違う」

 ミスティーの問いに、あいまいに答える。

「今度この街に、寮も付いてる学園を開くことにしてさ。そこに家の子供たちも入れる。で、ポルコには、冒険者科の教師になってほしいんだ」

「何でまた俺にって、キョウヤか?」

「あぁ。キョウヤに指導してるの聞いてたから、ちょうどいいと思って」

「アイツに教えてんのは、ただの気まぐれだったんだが……」

 ポルコは苦い表情をした。

「あらもったいない。街の依頼より安定した収入も得られるでしょ? ポルコさん、街の外の依頼受けないし。家のツケも、貯まってますよ~」

「うぐっ」

 ミスティーの容赦のないツッコミで、より苦い表情になるポルコ。

「何か理由でもあるのか? 冒険者で街から出ないって、ルーキーでも珍しいだろ」

 お遣いクエストとか裏山で採取依頼とか、何かしらあるだろうし。

「……」

 ミスティーは黙ってポルコを見つめていた。

 空気的に何かあるんだろうな。まぁ、無理に聞くのは止めるか。

「無理に言わんでもいいぞ」

「いや、構わんぞ。もう、ずいぶん昔のことだ」

 ポルコはそう言い、グラスを傾けた。

「俺はこの街に来る前は、帝国中を旅してた。でだ、同じように旅をしていたルーキーたちと知り合った」

「ルーキー?」

「相当な馬鹿どもでな。冒険者の基礎すらあやしいのに、無理して旅をしていた。だが仲間どうし、仲がいい連中でな。貧乏なのも楽しんでた」

 ポルコは微笑ましい表情で語っていた。

「そんなアイツらの気に当てられてか、いつしか俺は奴らの兄貴分になっていた。」

「ポルコの教え子第1号か」

「ああ、自慢の教え子だよ。なんせBランクにまで上り詰めた。将来全員Aランク間違いないと言われてたパーティーだ」

「想像以上に凄ぇな……」

「だがあるとき、俺が依頼でいない間にアイツらは死んだ」

「……」

 俺は言葉が出なかった。

「帝国貴族のワガママでな、無茶な依頼を引き受けた。『魔境』での素材入手。あそこは特別な場所だ。特別な技術がいる。いくらBランクでも、『魔境』ではルーキーだ」

「ポルコがこっち来たのって……」

「ああ。どんな場所なのか気になってな、俺も入ってみた」

「よくは入れたな。普通トラウマもんじゃね」

「まぁ冒険者はここでなくても、油断をすれば死に至る。いずれ仲間を失う経験をすることもあると思ってたからな」

 魔物や盗賊とやり合うこともあるだろうしな。

「『魔境』入ってみて思ったよ、俺にはあわない場所だって。相手の縄張りで戦うなんざゴメンだって。だから、俺は緊急招集のような、向こうが俺の縄張りに来たときのみ戦うことにした」

「ポルコさん、緊急招集のとき冒険者の指揮をとってるのよ」

「だから俺たちが初めて街に来たとき、対応してくれたわけか」

 ミスティーの言葉で思い出した。あの時はポルコとキョウヤが一緒だったな。

「俺自身、アイツらのことがあるから、誰かに物を教えるってのが引っかかってた。だが、何の気まぐれか、キョウヤに教えることになった」

「どんな気まぐれだよ」

「いやなに、アイツが『英雄』になるんだってこだわってたのが気になってな。こりゃほっといたら、いずれ死ぬと思ったんだよ。今は大丈夫になったみたいだがな」

「ありがとうポルコ、俺の家族を護ってくれて」

「気にすんな、俺も救われた」

「それでもだ、ありがとう」

「いいってことよ」

 俺とポルコは、ミスティーに入れてもらったグラスをぶつけ合った。


「あ、お前そのグラス、ママに入れてもらいやがったな!」

「いいだろ別に、それくらい。もう家族なんだし」

「ミスティーママは、今日俺のためにお酌してくれてんだぞ」

「けぽっ」

「ふふっ」

 俺はポルコを気にせず呑んでいたのだった。


------------------------------------------------------------

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る