第38話 38話 前世からのプロポーズ

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「姉さん、ここ座って」

「どうしたの、急に?」

 リライズのステージ前に椅子を置き、姉さんに座らせる。

 ステージには、大きなグランドピアノとマイクをセット済み。


「ちょっと姉さん相手に弾き語りたくなってね」

「ん? いいわよ。あたしもレイジの曲好きだし」


 俺はBGMになる曲を弾き始めた。

『覚えていますか? あの日、最後に二人で眺めた夜空』

 

『虫の音が響き渡る山の中、あたりの明かりは星明かりのみ』


『空には満点の星空』


『綺麗な線を描く流れる星』


『僕の隣には、あなたがいた』


『手を繋ぎ、鼓動が聞こえるほど近くに寄りそう』


『僕はそこで、あなたに愛を伝えました』


『あなたに想いが伝わったとき、夢のように嬉しかった』


『でもそれは、とても儚く』


『――幻のように消え去った』


『誰も知らない』


『世界には、僕とあなたが、ほんの一時でも結ばれたことを知る人は、誰一人いなない』


『本当は現実ではなく、本当に僕の幻だったのでは、と』


『そんな時、奇跡が起こった』


『死んだ僕たちを受け入れてくれた世界』


『またあなたと出会わせてくれた世界』


『僕は世界に感謝します。あなたが生きていてくれて、ありがとう』


『そして世界に誓います。二度とあなたを離さないと』


 特別なことなんて要らない。

 ただそばにいられたら、それでいい。

 ありふれた幸せが、僕にとって何よりも幸せなんだ。

 どうか、この幸せが続きますよう。

 どうか、私を隣にいさせてください。

 俺は、想いを乗せ歌った。

 俺は、願いを乗せ歌った。


「……」

「……」

 沈黙が広がる。


「ごめんね、レイジ。勝手に離れてしまって」

 姉さんのこの世を去ってしまった謝罪。


「ありがとう、レイジ。私を愛してくれて」

 姉さんが俺の想いを受けとめてくれた感謝。


「俺は……」

 俺は、

「――あなたを愛しています。前世から、あなたのそばにいたいと思っていました」

 ずっとそばにいたい、それで幸せなんだ。


「どうか私と、結婚してくれますか?」

「――はい、よろこんで」


 頭が真っ白だ。

 嬉しすぎて思考ができない。


『二人ともおめでとう!!』


 店の奥にスタンバってた、カズマ、タケル、ヒソカ、キョウヤ、ミスティー、リライズの店の子たちが現れた。

「ささ、チハヤ奥行くわよ」

「チハヤママ、早く早く」

「え? なに?」

 女性陣に連行されていく。


「期待してていいよ。最高傑作だから」

「ミーも渾身のできだったネ! 最高のデザインヨ!」

「ありがとさん」

 俺たちの中で唯一前世で服飾をやっていたカズマ。

 そのカズマに、タケルにデザインしてもらったウエディングドレスを作ってもらった。


「おっす、外凄いことになってるぞ」

「うむ、お祭り騒ぎになっておる」

「屋台なども出始めております」

 冒険者・ポルコのおっさん、ロミオ、セバスが、外の様子を語る。

 今回のプロポーズは、VRスクリーンで街に上映したのだった。

 誰も知らない、夢幻ではなく、現実のものへとしたかった。

 そこで、姉さんを受け入れてくれたこの街の人々に、生き証人になってもらうことにした。


「どお、レイジ、感想は?」

「姉さん……」

 純白のウエディングドレスを身にまとう姉さんがいた。

「……本当に綺麗だ」

「ありがと、ふふっ」


「さ、父様、母様、行きますよ」

 突然、キョウヤに声をかけられる

「ほら、チハヤママ、レイジパパ、早く早く!」

 ヒソカに背中を押され、歩き出す俺と姉さん。


「ちょ、待て、行くってどこにだ?」

「「教会」」

 キョウヤとレイジにつれられ、街の教会へ向かうことに。

 移動はロミオのとこで馬車を用意されていた。


「姫巫女様、旦那様、おめでとう!」

「姫巫女様おめでとう!」

「旦那様おめでとう!」

「二人仲良くするんだよ!」

 街の人たちが手を振り、言葉をくれる。

「ほんと姉さん人気者だね」

「あんたも人ごとじゃないわよ、旦那様」

「おぅ」

 すっかり俺たち3人も、この街で有名になりつつあった。

 とくに俺は、姉さんの旦那ってことで一番目立つ。


「つきました、足下にお気をつけください」

「ありがとう、セバス」

 俺はセバスにお礼を言い、馬車を降り、姉さんの手を引いた。


「ほんと、とんでもない教会作ったわね。どこの大聖堂よ」

「いやぁ、どうせ作るなら、この国の中心となる教会だしって、悪のりした」

 まさか自分で作った教会で、結婚式をあげるとは思ってもなかった。


「私が進行を務めよう」 

 ロミオが祭壇へと上がる。


「皆、今日は本当にめでたい日になった。我が国の英雄『チハヤ』と『レイジ』が結婚することになった。恩人である二人が結ばれることを祝福できることになった」

『おぉ!!』

 教会の外から歓声が聞こえる。

 あいつら、VRスクリーンで上映しやがってる。


「どうか二人には、誰もがうらやむ夫婦になってほしい。では、神への誓いをはじめる」


 ――幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、愛し、敬い、慈しむ事を誓いますか?


「「誓います」」


 ――では誓いの口づけを


 俺は姉さんのベールを上げ、唇を重ねた。

『うおぉ!!』

 教会の外だけでなく、仲間内からも歓声が上がる。


「愛してる、姉さん」

「レイジ……」


 姉さんは俺に近づき、


「レイジが嫌って言っても……」

 耳元へ口を寄せ、


「――離してあげないんだから」

 囁いた。


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