第36話 36話 プロポーズ計画
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獣人国『アラモード』から戻り数日。
俺たちはリビングで、ロミオとジュリエット結婚式の計画を練るところだった。
だったのだが……。
「俺、プロポーズするわ。姉さんに」
「「は? 子持ちの既婚者が何か言ってる」」
と、意味がわからないタケルとカズマ。
「いや俺、こっちの世界に来てからプロポーズしてねぇし。実質前世は死んで一回リセットされただろ。ぶっちゃけ、人のことの前に自分のことを何とかしねぇと」
「確かに理屈的にはわかるけど……」
「子供いるし、超今さらネ!」
確かに今さらだ。だが、
「姉さんにウエディングドレス着せたいんだ」
「「あ」」
そうだ。二人が気づいたよう、俺と姉さんは正式に結婚すらしていない。
「なんせプロポーズした翌日に目が覚めたら、段取りと違って、俺に内緒で邪神に挑んで、勝手に死にやがってたからな、姉さん」
「「おぅ」」
正直、夢かと本気で思った。
未だにそこだけは本気で怒ってる。
「『柚希を救う』っていう人生目標があったから、なんとかなったが……。まぁ、トラウマもんだわな」
「何度聞いても、エグいなぁ」
「さすが姉御、容赦ないネ」
姉さんの死を無駄にしないためにも、俺の手で邪神を完璧に倒しきるって、逆にスイッチが入ったのも事実。
まぁ、姉さんもそこを見越してたのと、あと邪神をもう少し弱体化させたいのと、2つが一致したからの決行だったのだろう。
「んで、まぁ、ロミオたち見てて、俺としても気持ちの整理というか、キチンと向き合いたいって影響された」
「理由はわかったけど、実際どうプロポーズするか考えてるの?」
「というよりまず、1回目のプロポーズってどうしたネ?」
「1度目は普通に、夜空見ながらってな感じで……」
「「純情だね~」」
「うるせっ!」
くっそハズい。
「それで旦那、2度目はどうするネ?」
「それって僕ら聞いていいもの?」
「ああ、というより少し協力してほしい」
「「?」」
こうして俺と姉さんが〝主役〟の物語が動き出した。
◇ ◇
「店を貸し切りたい? 別にいいけど、でもどうして?」
俺は異世界キャバクラ・リライズで、ミスティーに場所を借りようとしていた。
「あー、これ姉さんには当日まで内緒で頼む。姉さんへのサプライズイベントだから」
「また何かやるのね、それもチハヤに」
「そういうこと」
「内容は?」
「……言わないと誓えるか?」
「誓うわ」
胸に手を当て、うんうんと頷くミスティー。
「実は……」
「えっ、ほんとに!? おめでとー!」
ミスティーは、自分のことのように喜んだ。
「あー、もしかしなくても、姉さんからこの辺の事情も聞いてたか?」
「チハヤとレイジの事情は、全部初めから聞いたわ。お家の事情とかも」
「そうか。だから姉さんは、ミスティーを家族だって言ってたわけか」
「今はレイジたちも家族だと思ってるわよ」
「ありがとよ」
ふっと笑う俺とミスティー。
「あぁ、あと、もう一つ頼む。姉さんの親しい人たちも誘っておいてくれ。準備の方は、あいつらが動いてくれてるから」
「わかったわ。何かあったら、タケルとカズマに話しとくから、レイジは自分のことに集中しなさい」
「ありがとう、ミスティー」
これで場所は確保は完璧だ。
◇ ◇
「すまない、座って待っていてくれ。この書類だけ終わらせておきたい」
「悪るいな、ロミオ。急に来ちまって」
「気にするな」
俺はロミオの屋敷に尋ねてきていた。
「セバス、これを。それでレイジ、話しとは?」
「ああ、ちょっと大々的にやりたいことがあってだな。ほら、街改造の時みたく」
「ふむ、何をするのだ?」
「プロポーズ」
「ふむ、誰のだ? タケルやカズマか?」
「……俺だ」
「「は?」」
ロミオとセバスは声を上げた。
いや、うん、そういう反応だよな。
「と、失礼しました。レイジ様は、姫巫女様とご結婚なさっていますが、新たに第2夫人を迎えるのですか?」
「いや違う。プロポーズの相手は姉さんだ」
「すまない、ますます意味がわからぬ」
「まず、ロミオたちって、俺と姉さんの事情、どこまで聞いてる?」
「こことは異なる世界で命を賭けて悪しき神を倒したと。それを創造神『ユッキー』様がいたく悲しみ、死後こちらの世界に迎え入れたとまでは聞いておる。この話しは有名な話しで、教会などでは神からのお告げがあったらしい。だから政治者は特に『姫巫女』関連の扱いは注意するよう気をつけていた」
「へぇ、そんなことになってたんだな」
ブタ神のアフターケアか。
「もっとも、それ以上のことは何も聞いてないがな」
「子供が生まれるとなった時は、大騒動でしたね」
「相手は誰だと騒いだり、『姫巫女』と縁を作ろうと、子供たちの婚約話を持ちかけたり」
「子供たちまで巻き込まれたのかよ……」
「安心しろ。『姫巫女』が全部〝壊した〟からな。『姫巫女』と交渉できると思う奴はいないだろう、はははっ」
いったい姉さん、何したんだよ……。
「まぁ、そこまで事情広まってるなら、あとは簡単だ。俺は姉さんと結婚式を挙げてないんだ。プロポーズした次の日、姉さんは邪神に挑んで死んだ」
「それは……」
「なんとも、お労しや……」
ロミオもセバスも、顔をしかめる。
「それは今一緒にいられてるからいいが、俺としては、生まれ変わった今、もう一度プロポーズして、姉さんにウエディングドレスを着てもらいたいんだ」
「それは大変よろしいことかと」
「うむ、姫巫女はもう我が国の身内。おそらく街の連中に話しが伝わったらお祭り騒ぎになる。それくらい多くの者に喜ばれるだろう」
「すまん、お祭り騒ぎになる」
今回のことは街の人にも関係ある。
「全開のトラウマってのもあるんだが、今回は俺たちの結婚の生き証人を多く作りたいんだ」
「生き証人ですか?」
「あぁ。俺という人間は確かにここに存在した。そして姉さんと結婚し、子供を授かった。それを〝世界〟に刻みつけたい」
「なんとも壮大だな」
「それに2度目のプロポーズだからな。1度目とは違う形にしたかったんだよ」
「ちなみに、1度目のプロポーズはどんなだったか聞いてもよいか?」
ロミオの質問に、なんだか照れくさくなってきた。
「流星群っていう流れ星がたくさん見られる夜があるんだが、2人で夜空をみながらな……」
「「おぉ」」
ロミオとセバスは関心する。
「特別な夜に、特別な言葉を、か……」
「さすがです、レイジ様!」
は、ハズい、めっちゃハズい。
「まぁ、だからこそ、1回目を超えるプロポーズをしたい」
「それは難題だ……」
「レイジ様、もう案が浮かばれてらっしゃるのですよね?」
「そうだった、それで最初の頼みか。大々的にとは、私は何をすればよい?」
「街改造の時みたく、街におふれを出して欲しいんだ。姉さんにプロポーズのことがバレないように」
「そのくらい任せろ」
「すぐに手配します」
「何かあったらカズマとタケルがメインで準備してるからそっちか、それかリライズのミスティーに話しといてくれ。3人とも協力者だから」
「委細承知した」
「かしこまりました」
これで俺と姉さん主役の〝物語の舞台〟は、完全にととのった。
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