第34話 34話 音楽普及

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 宴もいい感じに進んだし、そろそろ予定通り動くか。

 『異世界ヲタク化計画』のために。


「獣王、ちょっと場所借りるぞ」

「ん、何する気だ?」

「まぁちょっとした余興だよ」


 アイテムボックスから楽器を出す。

 今日の俺はベース担当。姉さん用のマイクとスタンドも用意。

 電気がないので魔法で動くようにしている。

 アンプはなく、専用魔方陣がスピーカー代わりになる。

 音に合わせ光るLEDランプみたいで、見た目も綺麗だ。

「僕がキーボードやるよ」

「レイナ、ギター任せるネ」

「かしこまりましたデス」

 人数が足りないので幼女メイド・レイナにも参戦してもらう。


「姉さん、一応VRスクリーンで歌詞表示しとくから。姉さん以外には認識できないから安心して」

「助かるわ、さすがに歌詞暗記までは間に合わないから」

「なんせ昨日いきなり頼んだのだしね。聞き込み大丈夫」

「大丈夫よ、普通に歌える」

「んじゃ、はじめますか」

「ええ」


    ◇    ◇


「あいつら、サラッとアイテムボックス使いやがってる……」

 アイテムボックスという貴重なものを人前で使う神経に驚く獣王。

「驚くのはまだ早いかと。彼らは何かやる見たいですから」

 ロミオが獣王をなだめる。

「いつも、ああなのか?」

「正直言うと、いつもはもっと酷いです。なんせ文字通り、エデンの街をたった数日で国として作り替えましたから」

「たった数日で、だと?」

「はい。その力に比べたら、アイテムボックスの貴重性はかすみます」

「変な幻術で見たエデンの街は?」

「全て本物のエデンの街ですよ。転移装置が設置されるのです。気軽に遊びに来てください。例えば、〝結婚式〟など……」

「チッ。まったく、とんでもねぇ連中だ……」

「私もそう思います……お、始まるみたいです」


    ◇    ◇


 俺たちの後ろに、大きな魔方陣が展開される。

『あ、あ、音量いい? そう、大丈夫みたいね』

 姉さんがマイク音量確認をする。

『それじゃ、あたしたちから、ちょっとしたプレゼントあげるわ。ロミオとジュリエットの愛を祝して……』


 俺たちの計画が始まる。

 今回俺たちが演奏するのは、ストリングスバンドのオリジナルラブソング。

 キャッチーなメロディーに、姉さんの美声を交えて、先ずは社交界に、新たな音楽を広める。

 この曲は、後々何度も商売で使うつもりだ。くくっ。


    ◇    ◇


 耳馴染みのない音、目にしたことのない演出に驚いた。

 特に若い世代には完全にハマっていった。

 それは2人の子供たちも同様だった。


「チハヤママ、凄く綺麗……私もああなりたいな~」

「姉様も歌うのですか?」

「歌う、か。それもいいかも」

「ん、僕はもしや、余計なことを言ってしまったのでは?」

「ママみたいに綺麗になれればそれいいと思ってたんだけど、歌うのもいいかも」

「しまった、完全にやる気になってしまった……」


 何気ない言葉を紡いだラブソング。

 でもそんなチープ曲も、特別な曲になる。


「素敵な曲ね……」

「ああ本当に……」

 ロミオとジュリエットは、手を繋いで聞き入っていた。

 歌詞に自分たちの想いを乗せて。

「ねぇ、ロミオ……」

 視線はステージのまま、ジュリエットに声をかけられた。

「ん?」

「…………、愛してる」

 繋いだ手の力が、強くなった気がした。

 それを握り返し〝世界一の色男〟は……、

「――愛してるよ、ジュリエット」


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