第20話 20話 たった1人のための英雄

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「フッ! ハッ!」

 新リライズの裏庭で、キョウヤは日課の素振りをしていた。

(母様の言うとおり、〝あの人〟も英雄だった。僕は2人の英雄の子供)

 考えながらも、動きは止めない。

 無意識でも反応できるよう、体に染みこませる。

(僕がキングとやり合うなら、力は無理だ。動きで翻弄/ほんろうし、一撃たりとも受けないように……)

 スピードをどんどん上げていく。

(もっと早く、もっと鋭く……)

 息が上がるが、それでも止めない。キングの死という目標到達前に止まるのは自分の死を意味する。



「お、やってんねぇ」

「レイジさん……」

 素振りを止め、呼吸を整えていく。

「邪魔したか?」

「いえ」

「そうか」

 会話が続かない。

 自分の父といっても、この年になるまであったことのない他人。

(母様に事情を聞いていましたが。どうやら僕はそれでも、今まで会えなかったことに何も思わないわけではない、みたいですね)


「1つ気になったことがある」

「え?」

 レイジの突然の質問に戸惑う。

「そんなに〝英雄〟になりたいのか?」

「……」

(母様や父様みたいに英雄になります、か)

「僕は子供の時、英雄になると言っていました。ですが、今はよくわからなくなってきています」

「わからなく?」

「何が英雄なのか、自分がどうなりたかったのか。両親2人とも英雄というのは、自分で思ってるよりも重荷になっているのかもしれません」

 そんなつもりはなかったが、どうしても英雄という物に意識してしまってる自覚がある。


「自分でもよくわかってないから、とりとめない話しになるが、いいか?」

「構いません」

「英雄……ってのは、なろうと思ってなるもんじゃない。勝手になってる物だ」

「勝手に?」

「英雄本人に、英雄になったって気はないだよ。俺や姉さんもな」

 英雄になった自覚がない。なら英雄とは?

「例えばさ、世界に英雄って何人いると思う?」

「わ、わかりません」

「正解」

「え?」

「世界に何人いるかわからない、それくらい英雄は――いる」

 どういうことだろう? そんなに英雄はいるものなのか?

「自分を救ってくれた。救われた者にとっては、そいつは英雄なんだ。たった1人にとっての英雄」

 たった1人以外にとっては普通の人物。

「姉さんから家の事情、どこまで聞いた?」

「代々一族で、悪鬼という邪神と戦い、封じていたと」

「十分だ。俺たち家族はな、別に世界のために戦ってきたわけじゃない。俺の場合、たった1人の妹のために命を賭けた」

「たった1人のため……」

「封じるだけだと、復活する。だから代々少しずつ邪神の力を削ってきた。命がけでな」

「なんとか、妹の代では倒しきれるよう、俺の両親や姉さんが邪神を弱らせ、俺は仲間と邪神を倒しきった。まぁ死んだんだけどな」

 死んだと軽く口にするが、想像以上の試練だったはず。 

「でも世界はそれを知らない。俺たちは裏の世界の人間だったから。表の世界の住民は、世界滅亡の危機なんてみじんも思っちゃいないよ」

「それでは!」

 代々命を賭けて頑張ってきたのに、誰もそれを知らないとは、どんなに残酷なことか。

「でも俺たちは満足なんだよ。〝たった1人〟、妹のために俺は英雄になれたからな。俺は世界最強の兄だって胸張れんだぜ」

 たった1人のための英雄……。

 認めてもらいたいんじゃない、自分の守りたいものを守り抜く。

 それが英雄。



「そんな英雄に、僕はなれますかね?」

「なれんじゃね? 意外と簡単だぞ、英雄なんて」

「「ふふっ」」


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