第3話 3話 兄は異世界にギャルゲを広めてきます
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「でね世界の大半は、『戦争』か『環境汚染』で滅ぶんだ」
俺たちは、ブタ神が用意したティーセットでお茶やお菓子を楽しみながら、愚痴をひたすら聞かされていた。ブランデー効いたブラウニーがうまい。
「もちろん何とか滅びを耐えた世界もあるにはあるが、そういう場合って『戦争をせず』『環境再生の技術』2つが必要になるんだ。だけど利を求めてしまう人が多いから、足の引っ張り合いで……」
「まぁ、人の本質的に当然だろ」
俺たちの世界だって、裏では悪鬼に世界を滅ぼされそうになっていたが、表の世界は政戦だった。なんてお気楽なこった。
「世界全体で『生きる』のか、世界全体で『死ぬ』のか、この2択しか無いのに……ふぅ」
物悲しさを漂わせ、疲れ果てたおっさんのようため息をつくブタ神。
「だけど、魔法世界はもっと悲惨なんだ。そもそも魔法世界に発達する確立って全体の2割くらい? まぁ、それだけで貴重。なのに『戦争』なんて当たり前、『魔物』のスタンピート、世界を破壊できる『禁忌魔法』、それを使用する『魔王』とか『邪神』とか。もう、いろいろ湧いてくる。やんなっちゃうよ」
「ファンタジー世界って意外と珍しいんだな。となると俺たちの世界って、結構貴重?」
「魔法だけでなく科学も両立した世界とか、ないない、そんなの都市伝説……のはずだったんだけど。初めての事象だよ。君たちの世界は、科学ベースに魔法が存在する。両方なんてありえない。神のいない野良世界がそんな発達するなんて、私は神の存在意義を疑うね」
自分全否定かよ!
「ましてや仮にも『神』である『邪神』を倒す? 笑えないよ。『神』相手にやり合うって……。君たちの一族って異常だよね」
あの悪鬼、邪神だったのかよ。神から異常と言われる一族って……。
「だからこそ君たちには……、『僕の世界』に転生して欲しい。〝科学と魔法〟の両立した世界を創りあげるために」
滅ぶことのない魔法科学世界、それを自らの手で創りあげたいブタ神。
世界安定のために、俺たちは呼ばれたと。
面白い。愛すべき2次元展開のようだ。だが……。
「「「――だが断る!」」」
「ブヒッ!?」
俺たち3人の言葉が重なる。考えることは一緒か。
「バトル主人公は、もういいわ」
「2次元に浸っていたいネ」
「世界の幼女を見護るさだめが」
おいカズマ、なんのさだめだよ。
「ちょーっと待ったぁ! 君たち、異世界モノ知ってるなら、流れわかるよね? 俺TUEEEEだよ! 前と違って努力し過ぎなくてすむんだよ! 強くてニューゲームだよ!」
必死に俺たちを止めようとするブタ神。
でも、無理だな。
だって、
「異能バトルは十分すぎるほど堪能したしな」
「ミーたち全員、死んだけどネ!」
「タケル、それは言わないお約束だよ」
「「「ハッハッハ」」」
――ゴンッ
ブタ神は突然立ち上がり、テーブルに額をぶつけながら、頭を下げる。
「「「……」」」
「すまない。結局ね、〝僕〟は自分が救われたいんだ。住民たちのため世界滅亡を食い止めたいわけじゃない。神だと言わせておきながら、矛盾している偽りの存在。全てを救う気がない、できるとも思わない。もちろん、余裕があれば救いたいよ。わざわざ捨てる気もない。1人でも救われたらと本気で思う」
全知全能の神ではない。自分自身、そう思うからこそ〝便宜上の神〟と名乗ったか。
「だが根本的には、周囲の人間さえ笑っていられたらと思ってしまう。そうすれば、生きるよりも辛い『現実』を直視することがなくなる。誰もが『あぁ楽しかった!』と、笑って死ねるだろ?」
ものすごく、神らしくない神。人間くささがある。もしかすると、『神』と名乗るのは嫌いなのかもしれない。
「他の神々に、『〝よくある魔法世界〟だ』なんて言わせない。『どうせ滅ぶ』なんて言わせない。僕の世界に『バットエンド』なんていらない。ご都合主義でいい。
〝絶望の世界〟に立ち向かうためには、君たちが必要なんだ」
(救われるのは世界や住民たちだけじゃない、君たち自身もだ。君たちはもう、僕の内側の人間なのだから。1人で駄目なら、みんなで変わるんだ。僕自身も)
「この〝人生/ストーリー〟は僕が主人公だ!
『僕』と『僕の周り』の幸せのために、君たちに依頼したい。
――どうか〝僕〟を助けてください」
KAMI(ブタ)は、深く頭を下げた。
「まぁブタの本心は置いといて」
「ブヒッ!?」
「結局、俺たちが生きるには転生しかないわけだろ」
「ミーはギャルゲ主人公でハーレム転生予定だったヨ……」
「その気持ちは、みんな同じだよタケル」
「俺は純愛ストーリー派だ」
「乙女だよね、レイジ」
「うっせ」
相手は1人で十分だろ。
「じゃ、じゃあ、みんな〝僕〟の世界に転生してくれるのかい?」
「さっきから『僕』になってるぞ、ブタ」
「ブタって言うなし! 私のことはKAMIと呼びたまえ」
「はいはい、KAMI、KAMI。でブタ。結局、転生ってなに?」
「くっ、まぁいいだろう」
ブタは諦めて、呼称を受け入れた。
「君たち一族は、仮にも『神』と呼ばれる存在と戦い、世界を救う貢献をした。その報酬として異世界で幸せになってもらってる。あ、レイジ君のご両親も別の世界に転生してもらったよ」
「親父たちも?」
「ご両親、凄いね。転生特典は君たちより低かったのに、元々のスペックで世界最強だよ。まぁ実質、世界最強はお袋さんなんだけどね。親父さん尻に敷かれてるし。国を興して、子供は9人、野球できるよ!」
さすがです、母様。親父、ガンバ。
「それで報酬って?」
「いや~、それが困っていてね。君たちの場合、完全に『神』を倒したから、特典をどうしたものかと。君たち神になる気ある?」
「「「ねーよ」」」
「だよね! だよね! 私もそう思う」
テンプレ通りなら、神ってサラリーマンみたいなモノだろ? 永延の労働なんて地獄だわ。むしろ、なんでこいつ神になった? 俺たちと同類(ヲタ)だろうに。
「まぁ特典については、追々話すとして。君たちの異世界での指針だけど、普通に暮らしてもらって構わないよ」
「何かやらせる気じゃなかったのか? 科学を発展させるとか」
だからこそ、頼んできただろうし。
「そうなんだけど、君たちの能力だと転生特典抜きにしても、世界で目立つ。どう頑張っても、世界に大きく関わることになる。だから転生さえしてくれるなら、自由にしてもらっていいよ」
「目立たないよう徹底したとしたら?」
「それはそれで構わないよ。神々が、私の世界に興味を持ってくれれば」
「興味?」
「わかりやすく例えるなら、君たちは『動画配信者』みたいなものなんだ。君たちの生きてる日常、それを物語として神たちは楽しんでる。ただし原則として、ただ見まもるのみ。手を出して良いのは、この世界を作った私だけ」
一気にファンタジー感なくなったな。どこの動画クリエーターだよ。
「ようは世界が発展して、おまけで面白おかしくできたら、後は自由ってことか」
「その通り!」
まぁ元々俺ら3人、異能バトルしながら、創作活動してたくらいだ。世界平和活動より、よっぽど面白そうだが。
「最近はスローライフも流行ってるしね。開拓ゲームみたく、村作りしたりとか。それこそ国を興してもいい。世界も発展するし、高視聴率も狙える!!」
「いや国なんか作ったら、全然スローライフ違うから」
国なんか作ったら、社蓄まっしぐらじゃねぇか。
「大丈夫大丈夫、作るだけ作って後は任せればいい。君たちは『プロデュース』するだけでいいだよ」
確かに企画のみなら楽だが、それですむわけないわな。
「ん、まてよ。世界の発展、それに神々が注目……」
なるほど、その手があるか。
「レイジ君、何かいい案浮かんだかい?」
「世界の発展自体は、俺たちの知識や能力でどうにかなる。だが世界平和のために動かなければいけないこともあるだろ?」
「確かに、余計なことするやからが必ずいると思うよ。他の世界でも例外なくそうだったし」
「そいつらを対処してくれる、なおかつ、神々の注目を集める〝主人公/ヒーロー〟を俺たちが大量プロデュースしていけば……」
「面倒くさいこと全部押し付けられるネ!」
「タケル、ぶっちゃけ過ぎだよ。でも確かに、僕らがやりたいことってたぶん世界が発達するものだし、あとは世界平和と神々の注目って点をクリアすればいいだけになるもんね」
「いろんな主人公が世界の平和をまもる。それは登場キャラの多い作品、もしくはオムニバス形式の作品を観てる感じになる。神々は、いろんな作品の主人公を見られるってことになる」
「レイジ君、君は天才だ!! 僕は君たちだけでも、注目を集められると思っていた。でもそれだけじゃなくなる。この上さらに、注目を集められる人が増えていくなんて……、君は神か!?」
「いや、KAMIはお前だろ」
――シュッ。
ブタが手を振ると、ティーセットは消えてなくなった。
「よし、お茶もなくなったことだし、そろそろ話しをまとめよう」
「さっきは話しが飛びましたが、転生特典は何が貰えるのですか?」
「そうだネ! クリエイトするなら、制作活動に役立つのがイイヨ!」
「転生前の能力って使えんのか?」
「もちろんだとも。邪神を倒したことでレベルアップしてるし、いまさら戦闘系の能力は要らないと思うよ。だからこそ、特典に困ってたし」
異能バトルも飽きたし、そもそも要らないがな。
「タケルじゃないけど、創作系能力ってことになるのかな?」
まぁタケルやカズマの言うとおり、能力は創作系でいいだろう。あとは、もう1つ……。
「1つ頼めるか?」
「なんだい? 大抵のことなら了承できるよ」
「妹に手紙渡したい」
柚希のことだ、俺たちだけが死んだことを気にしてるだろう。自分が頼りないって。
「あぁー、本当なら他の世界に干渉するのは駄目だけど……、担当者のいない野良世界だし、妹ちゃんも裏の人間だからあり、かな~。何より柚希ちゃんだし……」
「俺の妹がなんだ?(ギロリ)」
「ブヒ!?」
「落ち着きなよ、シスコンお兄ちゃん」
「また出たヨ、シスコンお兄ちゃん」
「お兄ちゃん言うな!」
「え、えっとだね、元々君たちを知ったのは、柚希ちゃんがキッカケだったんだよ。私の妹と名前が似ていたからなんだ」
「お前、妹いたんだな」
「もうわかってるかもしれないが、私も元は普通の人間なんだ。君たちと近い、科学100%の世界のね」
妙に人間くささがあったのは、そのせいか。現代に疲れ切った感があったしな。
「〝僕〟の場合、妹のために何もしてやれなかった。だから、レイジ君を見ていて、擬似的にその感情を満たしていたんだよ……。だからこそ、君の妹のために何かしたい、と本気で思ったんだ」
また僕に戻ってる。素が出ると僕に戻るな、こいつ。
「それで、手紙の内容はどうするんだい?」
「そうだな……」
「明るい内容がイイと思うヨ!」
「そうだね。まだ向こうの世界で生きていくわけだし」
「んじゃ……」
『兄は転生して、異世界へギャルゲを広めてきます』
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