立場の違い

 どうなることかと思ったけど、一応選抜に戻ることはできた。ただし、参加者としてではなく選抜者としての復帰。


 私はそれを隠さなければいけない。…いやそう言われた訳でもないけど、周囲に知れ渡ったら状況が複雑になるのは確実。


 このことを知っているのは、お姉様、パウリナさん、バンドっぽい人、アニーさんに先生、そしてクロティルデ家の関係者ってところかな。


 私はこれから、どんな気持ちでこの選抜に臨めば良いんだろう?自分が招いた事態ではあるんだけれども…。


 それと私には魔法を拒絶する力があることもわかった。これが私の能力?元の世界に魔法なんて無いし、心当たりがあるとすればバレーフォレストにいた頃に魔法を見学したくらいしかない。


 なんで私にそんな能力が?少なくともこの能力があれば、ゾンビにされることはないだろうけど…現状ではあまり役立ちそうにないなあ。


 さっきから何かがおかしい。まるで今いる場所が現実ではないような…かといって夢でもない、不思議な感覚。


 体が軽くなる魔法ならとっくに解けてるし、やっぱりこれは私が異世界に馴染めていないから…?


 もうここに来て3年も経っているのに、どうして今になってこんなことになってるんだろ。…今までの生活が実質的な箱入りだから?


 もっと外部と交流を持っておけば良かったのかな…。でも言葉も常識も身についていないんじゃ、交流なんてできないし。


 …いや、既にそういうのを身に着けていたとしても、交流するなんて考えにはならなかった。


 この世界には宇宙人の概念がある。そしてその宇宙人は大抵の創作物で敵役になっていて、宇宙人は悪い奴らというイメージが浸透している。移民のこともあるし、この大陸の人間は外部の存在を恐れている。


 そんな社会で、異世界人…いや、実質宇宙人ですって言ったらどんな目に遭うか…。


 もしも、記憶を失った状態でこの世界に来ていたら…生まれ変わっていたら、どんな暮らしをしていたのかな?きっと…こんな訳の分からない扱いをされることもなく、ハモンド家の娘として今よりもずっと充実した日々を送っていたんだろうなあ。今よりも心を開いて、友達を作って、気は進まないけどお見合いもして…。


 …なんて、お姉様や会ったこともないお母様には悪い話ね。お母様はお姉様を生んだ後に亡くなられた。私がハモンド家の一員として生を受ける余地なんて本来無いんだから。


 記憶がある以上、私は元の世界に帰らないといけない。特別な能力があるとしても、元の世界から変わらない成田家の娘。元の世界に帰って、無事を伝えないといけない。あの事故の生存者として。絶対に、元の世界のことを忘れてはいけない。


 …駄目ね。どっちつかず。あの時だって、おとなしく受け入れていれば良かったのに。そうすれば話が早かったのに。どうして覚悟を決め切れないんだろ…。


 …


 アマリア「4番、14番、28番、47番、61番、97番、110番!これらの者は無実であると確認された為、選抜への復帰を許可する!これらの者の擁護の為に選抜を離れた者も引き続き選抜に参加するものとする!」


 パウリナ「良かったですね。これで疑いを晴らせました。」


 アカリ「はい…。」


 豪快な貴族「何とか、生き永らえたって感じだな。めんどくせーことにはなっちまったけどさ。」


 ライアナ「…アカリ?」


 アカリ「はい…。」


 ライアナ「具合悪いの?」


 アカリ「いえ、大丈夫です。」


 ライアナ「いい?アカリは難しいことを考える必要なんて無いから。」


 アカリ「はい。」


 豪快な貴族「まーなんだ、お前はお前の考えを信じな。俺たちは残りでどうにか」


 パウリナ「ちょっと!」


 豪快な貴族「あ、すまん。まあそういうことだ。頑張れよ。」


 ライアナ「忘れないでね。私はアカリの味方だから。」


 アカリ「…。」


 パウリナ「…パウリナたちも行きましょうか。」


 アカリ(守るつもりだった子供に守られて、情けない…。)


 …


 ニコアラ「おお、よくぞ戻られた。パウリナさんの言葉は真実だったのだね。」


 セオン「心配しておりました。無実が証明されたようで何よりです。」


 アンスマーリン「だが、疑われるにも相応の理由があるはずだ。何があった?」


 アカリ「それは…。」


 パウリナ「誰にだって間違いはありますから。多分見間違えたんだと思います。」


 喧嘩腰の令嬢「子供を擁護に利用するとは…何と非道な…。」


 アカリ「貴女は…。」


 ニコアラ「ああそうだ、実はもう一人仲間がいたんだよ。彼女はロザーラ・ブルガン。グレートフォースの有力領主であるジャック・ブルガンの娘で、アンスマーリン殿とは知り合いだそうだ。」


 ロザーラ「覚えておきなさい。例え選抜に戻されたからと言って、貴女が善人だとは微塵も思っていませんので。」


 パウリナ「なんてことを言うんですか!貴女方はアカリちゃんの何を知っているのですか!」


 ロザーラ「子供を説得に利用するのは古来よりの常套手段。貴女は利用されているのですよ?」


 セオン「冷静になってください!アカリさんが悪人かどうかは試験内容において重要なことではありません!」


 ロザーラ「そうやって西部をけん制しようとお考えで?ドライグラスなどという小国の王族など、背伸びしてもたかが知れますね。」


 セオン「…。」


 エバ「まあまあ、こんなところで争っても自滅するのは明白。この選抜は令嬢としては出来損ないの女性たちが淡い期待を胸に集まる場。出来損ない同士、仲良くしようではありませんか?」


 ロザーラ「何…?」


 エバ「真っ当な令嬢なら、わざわざこんな選抜に参加するメリットがありませんし、平民は平民で家事など女の仕事がある。所詮ここに集まるのは役割を与えてもらえないはみ出し者。そうでしょう?」


 ユセル「あー…言っちゃった…。」


 エバ「フォードーターズは、選抜など行わずとも見込んだ人物を適宜スカウトもする。気に入る者がいなければ、誰も合格にしないなんてことも…。」


 ロザーラ「ふ…ふざけるのも大概にしなさい!これだから中央の人間はロクでもない…!その行い、必ず返ってきます。」


 セオン「西部も、一枚岩ではないのですね…。」


 エバ「ハ、私は見てましたよ。あのダルシャナ・シャルマに詰め寄られた時の貴女の小物っぷりを。」


 ロザーラ「そんな者と話した覚えなどありませんね。」


 エバ「あーらら、現実逃避しちゃってますね?」


 ニコアラ「うぅ、私には…このチームをまとめられないのか…?」


 セオン「ニコアラさん…。」


 アカリ(私は…どうしたら…?どうしたらこの状況を抑えられるの…?)


 パウリナ「アカリちゃん…パウリナは…。」


 アカリ「…大丈夫です。気にしていませんから。…!」


 パウリナ「…?」


 アカリ「…アッハッハッハッハッハ!アハハハハハハッハハハ!アッハハッアッハハハハハハハ!」


 ニコアラ「な…!?」


 ロザーラ「何ですの?」


 アンスマーリン「…。」


 パウリナ「アカリ…ちゃん…?」


 アカリ「さっきから聞いていればバカじゃないの?もう協力なんて無理。チームワークに固執すれば全員落ちるし。」


 エバ「正体見たりってところでしょうかねー。」


 アカリ「もう話す価値も無い。クズどもは精々、頭を冷やすことね。面白おかしく脱落すれば、まだ賑やかしくらいにはなるから!」


 ユセル「何でもいいから、終わってくれないかな…。」


 セオン「…なるほど。」


 アカリ「アッハッハッハッハッハッハ!アッハハハハッハハハハハ…!」


 パウリナ「アカリちゃん!どうしたんですか!?アカリちゃん!」


 アカリ(そうだ…今の私はある意味無敵の人のようなもの…。これが今の私にある一番の…強み…。何故だろ、不思議と笑いが…!)

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幻想の娘たち 蓬竜眼 @PlatinumKiwi

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