視点

 ニコアラ「さて、他のメンバーだが、ここに3人いる上にボールは私が確保してある。あとは私たちで呼びかければ集まるだろう。」


 そうして同じメンバーの皆に呼びかけたは良いものの、集まったのは私たち含めて9人だけ。


 1チームにつき16人いるはずなのに、こんな調子で大丈夫かな…。というか、他のメンバーはどうしちゃったんだろ?自分の従者と合流してるのかな?



 ニコアラ「…とりあえず、今集まっている者同士で自己紹介をしよう。改めて、ニコアラ・イオネスクだ。アイシクルフォレストにある商家の娘さ。」


 アカリ「アカリ・ハモンドと申します。バレーフォレスト、ハモンド領領主の養女です。」


 パウリナ「同じくバレーフォレストのパウリナ・グリックです。グリック家の領主の一人娘です。」


 セオン「ドライグラス、第四王女のセオン・ハンと申します。普段は教師を務めております。」


 アカリ(あれ…この人王族?ドライグラスって、多分東部かな?それに王族が教師とか、そういうのもあるんだ。)


 アデリヤ「あーっと、あたしアデリヤ・ソレル。強いて言えば旅する踊り子だよ。」


 アカリ(大道芸人ってこと?いくら何でも一人で活動してる訳じゃないよね…?)


 エリアナ「えっと…エリアナ・マレーバ、です。ファントムサンヒル出身です…。」


 アカリ(あ、あの時の人じゃん。)


 アンスマーリン「…アンスマーリン・アミーチ。グレートフォース、クラックポート市市長の妹だ。」


 アカリ(クラックポートって、西部の主要な港だっけ?グレートフォースには似た部隊があるはずなのに、どうしてここに来たんだろ?)


 ユセルの使用人「ユセル・クヌート様の使用人でございます。ユセル様より伝言がございます。第3チームの試合までには戻りますので、私抜きで進めてほしいとのことです。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。では失礼致します。」


 アカリ(まさかの伝言…。)


 最後に残った人「…。」


 ニコアラ「…ん?どうされた?もう貴女以外は名乗り終わったのだが…。」


 最後に残った人「馴れ合うつもりなどありません。」


 ニコアラ「…と、言いますと?」


 最後に残った人「平民の分際でチームを仕切らないでいただけますか?あなたのアピールの為に働く気はありませんので。」


 アカリ(あー、やっぱこういう奴もいるにはいるんだ…。)


 アデリヤ「アピールねー。あたし的にはそうやってチームを乱すのはマイナスになると思うんだけど?」


 アンスマーリン「それに今は王族も彼女に従っている。王族を尊重しないなど何のつもりだ?」


 最後に残った人「王族をぞんざいに扱っている訳ではありません。それは貴女の思い込みです。そうやって都合が悪くなれば自分より権威のある者にすがる。そのような浅ましい人間と組んでいる方が私にとってはマイナス。それだけのことです。貴女方で進めておいてください。」


 アカリ「…ま、まあ…とりあえず、ここにいる8人だけでも出来ることを進めていきましょう。」


 パウリナ「パウリナはニコアラさんがリーダーでも良いですから。」


 ニコアラ「ああ…ありがとう。だが、私も少々調子に乗ってしまったな…。」


 セオン「それが貴女の強みなのでしょう?自信を持ってください。失敗は私たちでカバーしますから。」


 アカリ(強み…この世界での私の強みってなんだろ?強みがないと選抜で勝ち残れないだろうけど、知る術も無いからなあ。)


 ニコアラ「恐縮です。王族である貴女にそこまで言っていただけるなんて。」


 セオン「王族とは言っても、所詮第四王女ですから。畏まることはありません。」


 ニコアラ「…。」


 エリアナ「あの、ご兄弟ご姉妹含めて何人家族なのですか?」


 セオン「兄弟が8人、姉妹が私含めて6人、そこに父上と5人の王妃の20人家族です。私は第4王妃の娘で、ハン王家の8番目の子供に当たります。」


 エリアナ「そ、そんなにですか…。」


 アデリヤ「王族は重婚が認められている。それは東部でも変わらないみたいですね?」


 セオン「西部でも東部でも身分ごとの権利は大きく変わりません。西部基本条約には正式に批准していませんが、東部諸国も部分的に従っている場合が大半ですから。」


 アカリ(そういえば、今まであまり身分を気にしてこなかったけど、こういう場に来てみると身分を気にしている人がそれなりにいる。…どういうことなんだろ?権力者と平民の間に一体何があるっていうの…?)


 ニコアラ「そろそろ作戦を練ろう。まずは、ドッジボールに対する自信の程を聞かせてほしい。」


 アンスマーリン「いいや、その前に確認するべきことがある。この選抜にどれ程の決意を持って臨んでいるかだ。特に、エリアナ・マレーバ!」


 エリアナ「わ、私ですか…!?」


 アンスマーリン「この選抜を利用して、誰かに拾われるのを狙うような人間を非難する訳ではない。だが、お前は何がしたいのかまるで分らん。人探しの為だけに参加しているとでも言うのか?」


 エリアナ「…。」


 アンスマーリン「私は、フォードターズを戦士として尊敬している。人によって政治家やら魔法使いやら、各々の視点で尊敬しているはずだ。お前はフォードーターズの何に惹かれてここに来た?」


 エリアナ「それは…優しさ…です…。私は…あの方のように優しい人になりたい。幻に溺れようとする人に優しく手を差し伸べようとしたあの方のように…!」


 アデリヤ「その人が幻だったってオチじゃないよね?」


 エリアナ「このペンダントは、その方から貰った物です。これが皆さんに見えているのであれば、あの方は幻じゃないことの何よりの証拠です。」


 アカリ「す、すみません…幻というのはどういうことなんですか?」


 エリアナ「え…どうと言われましても、幻です。起きているときに見る夢です。」


 アデリヤ「ファントムサンドヒルのこと、知らないの?」


 アカリ「その地を踏み入れた者に幻を見せる、ですよね?」


 アンスマーリン「知っているのなら、何故そんなことを訊く?」


 アカリ「その…幻というのは蜃気楼か、何かだと…。」


 ニコアラ「い、いやいや…その程度の幻なら、あらゆる信仰を禁止にしたりはしないだろうさ…。」


 アカリ「ということは…。」


 エリアナ「はい。誰かが話しかけてきたり、現実離れしたような景色が現れたりします。」


 パウリナ「スランプに陥ったバレーフォレストの芸術家がそこに足を運ぶこともありますよ。それで調子を取り戻した方はあまりいないみたいですけど。」


 エリアナ「好んでファントムサンドヒルに入る方は、心が不安定であることが多いです。なので幻に囚われて身を滅ぼす方が多いのです。」


 アンスマーリン「その幻を利用して、宗教に説得力を持たせようとする輩もいる。だからあそこでは一神教だろうと多神教だろうと、どんな信仰も禁止されている。貴族の癖にそんなことも知らないのか?」


 アカリ「…。」


 アデリヤ「おまけにそんなに暑くないから蜃気楼なんて滅多に出ないだろうしね。雨も割と降るらしいし?砂漠と混同しちゃってない?」


 パウリナ「ご、ごめんなさい!」


 アカリ「え…?」


 パウリナ「パウリナ、アカリちゃんのことよく考えなかったから…。だから辛い思いさせちゃった…。」


 アカリ「そんな…悪いのは私ですから…。」


 アデリヤ「…幼女にこんなことさせ」


 セオン「そこまでです!言葉を慎んでください。私たちは誰かを非難する為に集まっている訳ではありません。違いますか?」


 ニコアラ「ああ、そうだな。話が変わってしまった。今は作戦を考えないとだな。」


 アカリ(そう…ここは異世界。必ずしも元の世界の常識が通用するわけじゃない。でも、この常識を捨ててしまったら…私は…。)

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