都合

 タンサニー「では、最初の試験内容をお伝えします。最初の試験は、球技です。」


 アカリ(え、球技?)


 エリアナ「ま、待ってください!球技と仰いましたか!?」


 タンサニー「はい。球技です。」


 エリアナ「選抜の最初は筆記試験を行うのではないのですか?」


 タンサニー「前回まではそうでした。ですが、選抜を行う度に参加者は増加しており、今回に関しては126名が参加しております。流石にこちらの負担が大きくなり過ぎているというのが現状。そこで、本格的に選抜する前に簡単に皆さんの振る舞いを見せてもらいます。」


 使用人「運動場までは私が案内致します。私の後についてきてくださいね。」


 アカリ(今思えば、試験内容に関してちゃんとした説明はされていなかった。今までの対策が無駄ってことは…ないよね?)


 …


 パウリナ「ここって、前まで参加者が練習の為に占領していた競技場ですよね。パウリナが入れるなんて思いもしませんでした。」


 豪快な貴族「なんでだよ?あんたも参加者なら入れば良かったじゃないか。」


 パウリナ「他の参加者に追い出されていたんです。何を言ってもパウリナが子供なので、相手にしてもらえませんでした。」


 豪快な貴族「あー、そいつは…残念だったな。」


 パウリナ「この競技場は一般の方でも無料で利用できる場所で、参加者の為に貸し切りになったという話も聞きませんでした。なのに…。」


 アカリ「…練習はできたのですか?」


 パウリナ「良いんです。参加させてもらえるだけでも嬉しいので。今のパウリナが選ばれても、何も力になれませんから。」


 アカリ(練習場所を確保できただけ、私はまだ幸運か…。)


 使用人「こちらが第一選抜の会場になります。皆様に行ってもらう競技は、ドッジボールです!」


 アカリ「ドッジ、ボール…?」


 パウリナ「相手にボールをぶつけて競う競技です。ぶつけられた人は外野に回ってゲームを続けます。最終的に内野に人が残っている方が勝ちになりますよ。」


 アカリ「あー…。」


 アカリ(なるほど、ドッジボールだ…。私の世界よりメジャーな競技なのかな?)


 豪快な貴族「ま、実際に見てみればどういうものか分かるさ。」


 使用人「ルールを説明します。基本的には一般的なドッジボールと同じです。16人のチーム8つの勝ち抜き形式で、コートは一つのみ、一試合30分で進行します。アウトになる条件は、拾われてから一度も地面についていないこのボールが地面に接触することです。体だけでなく、顔、髪の毛、衣服やアクセサリーにもボールが接触しても同様です。」


 豪快な貴族「…なあ、西部はあんなにでかいボールを使うルールなのか?」


 パウリナ「いえ…初めて見ます…。」


 アカリ「…?」


 抗議する令嬢「お待ちください。大勢の参加者は今日体を動かすなんて想定していません。運動着無しで進行するというのですか?」


 使用人「試合開始はあの時計塔が11時を指す時です。それまでに用意が可能であれば運動着でも構いません。しかし、フォードーターズたるもの、正装や礼服を着ての戦闘にも備えなければなりませんし、いかなる状況でも品格を保たなければなりません。そのことをお忘れなく。」


 豪快な貴族「つまり、運動着を着て競技で有利になっても、選抜には不利になるってことか。ま、俺は運動着なんていらねーし。」


 パウリナ「ドッジボールは団体競技ですよ?自分だけ良くても…。」


 豪快な貴族「結構結構。その分アピールできるってことだ。」


 使用人「チーム分けを発表します。第1チームは…」


 …


 使用人「あちらの掲示板にトーナメント表が記載されていますので、ご確認ください。最初の第一チームと第二チームの試合は11時からです。1チームにつき1個のボールの用意がありますので、練習もどうぞ。では、ご準備を。」


 パウリナ「パウリナとアカリちゃんは第3チームですね。」


 豪快な貴族「俺は第6チームだ。対決するとしても多分決勝になるな。じゃ、頑張れよ。」


 パウリナ「そちらこそ。目立つ分気を付けてくださいね。」


 アカリ「…試合までどうしましょうか?時間までに最低でも顔合わせができれば良いのですが…。」


 パウリナ「メンバーは番号呼びでしたからね。ゼッケンもありませんし…あ!」


 …


 パウリナ「追いかけてくれたのですね。」


 ボウルイ「ええ。大勢が移動しているのを見てパウリナ様もと思いまして。」


 アカリ「お久しぶりです。ボウルイさんもこちらにいらしていたのですね。」


 ボウルイ「ご無沙汰しております。あれから私はグリック家に正式に雇っていただきました。パウリナ様専属の護衛として当然ですよ。」


 アカリ「そうでしたか…良かったです。貴方が競技場に入ることができるということは…。」


 ボウルイ「はい。選抜は一般に公開されています。ですが、フォードーターズの選抜においては珍しいことではありません。少なくともパウリナ様に近寄る不届き者には私が対処しますが、アカリ様は?」


 アカリ「えーっと…先生がいます。その内来られると思います。」


 ボウルイ「そうですか。話は途中から聞きました。球技を通じて選抜を行うようですね。」


 パウリナ「はい。これから同じ第3チームのメンバーを探すところです。」


 ボウルイ「私には精々観客席から見守ることくらいしかできませんが、頑張ってください。それと、アカリ様。」


 アカリ「はい?」


 ボウルイ「少々こちらへ。」


 …


 アカリ「…どうしたのですか?」


 ボウルイ「頼みたいことがあります。パウリナ様にはああ言いましたが、選抜中はパウリナ様のことをお願いします。」


 アカリ「と、言いますと?」


 ボウルイ「パウリナ様が選抜に参加している間、私はフォードーターズ、スザンナ・メルロの死の真相を探ります。その間、私はパウリナ様をお守りすることができません。」


 アカリ「スザンナ・メルロというのは、選抜の告知がされる直前にお亡くなりになられた方ですよね。何か不可解なことが?」


 ボウルイ「はい。私は本人に会ったことがありますが、奴はそう簡単に死ぬような人間ではありません。」


 アカリ(奴って…。)


 ボウルイ「彼女は歴代で最も素行が悪いとの評判ですが、現職の中では2番目に在職期間が長かった隊員です。粛清か何かがあったとしても、今になって突然というのは不自然です。」


 アカリ「…。」


 ボウルイ「もし私が逮捕されたとしても、パウリナ様に罪はありません。その時は申し訳ありませんが、パウリナ様の潔白の証人となっていただきたいのです。」


 アカリ「…パウリナさんは大切な友人ですから。何があってもパウリナさんは助けます。」


 ボウルイ「…感謝します。この恩はあの時のも含め、いずれお返しします。」


 アカリ「そんな、私の方こそ貴方のおかげで命拾いしたようなものですし…とやかく言えません。」


 ボウルイ「どうやら仲間が向こうから来たようです。試合が始まった頃に去りますので、よろしくお願いしますね。」


 …


 パウリナ「お話の方はもう大丈夫なのですか?」


 アカリ「はい。」


 パウリナ「そうですか。それより、メンバーが見つかりましたよ。」


 ニコアラ「初めまして。私はニコアラ・イオネスク。アイシクルフォレストの出身だ。君たちはバレーフォレストの出身だと聞いている。フォレストと縁がある者同士、仲良くしよう。」


 アカリ「アカリ・ハモンドと申します。こちらこそよろしくお願いします。」


 ニコアラ「子供の声から第3チームという言葉が聞こえたから、もしやと思ってね。あの男とは、何やら訳ありの関係のようだな。従者に堂々と隠し事をされる気分はどうなんだい?」


 パウリナ「関わらない方が都合の良いこともあるでしょうから。」


 ニコアラ「物分かりが良いんだね…。」

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