質疑応答

 タンサニー「…最初に手を上げた手前の方、どうぞ。」


 ヘルタ「グリーンフォレスト、ステバット家のヘルタ・ステバットと申します。フォードーターズのご活躍は、ここにいる全員が多少なりとも重要であると認識しています。しかし、そのご活動を補助する部隊の存在を考慮したとしても規模が小さすぎるように思います。何故部隊の増員を行わないのでしょうか?増員を行えば、その分女性が活躍する機会を直接増やすことも可能でしょう。増員について、どのようにお考えでしょうか?」


 タンサニー「ヘルタさん。確かに増員を行えばそれも可能でしょう。ここでは増員を行わない理由を2つお伝えします。1つはフォードーターズという組織が異質な規則の下に機能しているからです。例を挙げると、フォードーターズでは年齢、出身や血筋、功績などで序列が決まることはありません。フォードターズは全員が等しい立ち位置となっています。」


 ヘルタ「それは、どうしてでしょうか?そのような規則でどうやって部隊を機能させているのですか?」


 タンサニー「この規則は設立時から存在していました。元々、フォードーターズは身元不明の孤児たちから始まった部隊です。4人が生活していた孤児院では、年長によるいじめが横行していたと記録に残されています。立場に苦しめられた彼女たちは、孤児院での惨状を繰り返さない為に序列そのものを禁じたのでしょう。また、フォードーターズでは自分に出来ることを自主的に行ってもらいます。見方によっては、フォードーターズは部隊として機能していないと言えるかもしれません。」


 ヘルタ「ですが、フォードーターズの上には貴女がいますよね?結局は貴女の命令に従うことになるのでは?」


 タンサニー「一応はそういうことにはなっています。しかし、私が命令することは滅多にありません。私が命令を下す際は、相応の事態であることを表します。実質的に私は命令ではなく依頼をする立場にあります。無闇に命令すれば、フォードーターズの満場一致で当主の座を降ろされてしまいますから。」


 アカリ(結構、立ち回りを考える必要がありそう。指示待ち人間には到底務まりそうになさそうな感じかな。)


 タンサニー「クロティルデ家当主とフォードーターズは親子であり、入隊すれば当主と同じく貴族の身分となります。ですが、一般的に認識されている親子関係とは離れていると思っていただいた方が良いでしょう。」


 ヘルタ「…こうも放任主義で序列が無い組織では、下手に人数を増やすと立ち行かなくなるということですか。」


 タンサニー「その通りです。そして、もう1つの理由は特権の在り方に関することです。フォードーターズにはいくつかの特権があります。特権を持つ者が多くなれば、それだけ混乱が生じやすくなります。それを踏まえると、我々は4人で精一杯なのが現状なのです。」


 アカリ(そう言えば、健太は1年でも歳の差があると上下関係が生まれるのを物凄く嫌がってたっけ。健太のような人間はこういう組織でなら、そこら辺の優等生なんか比べ物にならない位活躍するんだろうなあ。まあ、自分が正しいと確信したら高学年や先生に対しても強気になるから、立場を与えられる前にボコボコにされちゃうんだろうけど。)


 タンサニー「一方で、フォードーターズに類似する部隊が設立されていくようになりました。代表例としては、グレートフォースの『エイトスターズ』や、東部に位置するトロピカルマウンテンの『シルバーヘキサゴン』がありますね。フォードーターズの権威が脅かされていると感じる方々もおられますが、私としてはむしろ同等の部隊になるのを期待しています。

 仮にフォードーターズを増強し、他の追随を許さない程に強大な存在になったとします。その上で万が一のことがあっても、代わりを担う存在が存在しないことになります。魔法は誰もが強大な力を持つことの危険性を示しましたが、限られた存在のみが強大な力を振るうともまた危うい状態です。我々が無理して増強するよりは足並みを揃える事が望ましいと考えています。」


 ヘルタ「他の部隊に足並みを揃える気が毛頭無い、としてもですか?」


 タンサニー「勿論、危害を加えるのであれば相応の対応を取ります。ある方から教わったことですが、願うことすらしなくなっては、叶うものも叶わなくなってしまいますから。」


 ヘルタ「…質問は以上です。ありがとうございました。」


 アカリ(流石に積極的な人間が集まっているなあ。1人の質問でこんなに時間を費やすなんて。)


 タンサニー「お待たせしました。他に質問のある方は挙手を。…私から見て右端の方、どうぞ。」


 女性「…貴女です。ペンダントを着けているセミロングの方。」


 エリアナ「は、はい!エリアナ・マレーバと申します。…ファントムサンドヒル出身の…平民です…。」


 タンサニー「エリアナさん。質問の前に少しよろしいでしょうか?貴女には、好きな方はいらっしゃいますか?」


 エリアナ「え…!?」


 タンサニー「恋人に限らず家族や友人、尊敬する人など、大切な方はおられますか?」


 エリアナ「は、はい…!います。」


 タンサニー「でしたら、どうか堂々と振る舞うように心がけてください。自身の価値を軽んじることは、貴女を支えてくださる大切な存在の価値も軽んじることになる恐れがありますから。」


 エリアナ「…承知しました。」


 アカリ(どういう場所でも、こういう感じの人はいるんだなあ。でも、こんなに上流階級の人間が集まっていれば、萎縮しちゃうのも無理ないかもね。…貴族だからって街中で特別扱いされた記憶はほぼ無いけど。)


 エリアナ「では、質問です。その…幼い頃、フォードーターズの方が私の故郷に来てくだり、竪琴の演奏を聞かせてくれました。私はその方がフォードーターズのどなただったのかを確かめたいのですが、心当たりはございますか…?」


 タンサニー「…。アマリア、何かわかりますか?」


 女性「いいえ。」


 アカリ(アマリア・セーデン!現職のフォードーターズ…!)


 エリアナ「…。」


 タンサニー「エリアナさん。私には思い当たる人物が思い浮かびませんでした。申し訳ありません。」


 エリアナ「い、いえ…こちらこそ申し訳ありません…。」


 タンサニー「エリアナさんが幼かった頃となると、13年程前のことになるでしょうか?歴代の隊員たちを見れば、竪琴を用いる者は珍しくありません。ですが、その頃は偶然にも該当者がおりません。」


 エリアナ「そう、ですか…。」


 タンサニー「ただ、フォードーターズは独断で行動することが多い部隊です。私が把握しきれていない可能性もありますし、除隊済みの方でしたら十分あり得ますが…自ら進んでフォードーターズを名乗ることは控えているはずですから。」


 アカリ(280年も続いていれば、曖昧な部分も出てくるよね。歴代将軍とかと違って一人ずつって訳でもないんだし。)


 タンサニー「そう言えば、現職の一人であるアリッサ・ジラルドの竪琴は過去の隊員が使用していた物でしたね。彼女であれば何かしらの手がかりを知っているかもしれませんが…彼女は現在ウインドムーアを離れています。」


 アカリ(離れている?現職全員が選考に関わらないってこと?それとも何か優先しなきゃいけないことがあるのかな?)


 タンサニー「可能な限り、こちらで調査をしましょう。手がかりにつながる情報があればお伝えします。」


 エリアナ「私一人にそこまでしていただけるなんて…本当に、ありがとうございます。」


 タンサニー「心置きなく選抜に臨んでください。その為の支援は惜しみません。…この場での時間は限られていますが、何かあれば関係者に伝えてくださいね。」


 …


 時間が限られているって言っておきながら、この質疑応答の時間は学校の発表会とかではありえない程の長さだった。言葉通り、今後の糧にしてもらう為にただの選抜では終わらせないつもりなんだ。


 私も何か質問すれば良かったかな?いや、こういう場で下手なことを口走ったらどうなるか…。


 ノエル先生もここで帰る手がかりを探してくれるみたいだし、なるべく穏便に進むように振舞わないと。

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