競争相手は敵か仲間か

 遂に選抜の一日目を迎えた。


 霧に包まれた朝にクロティルデ家の屋敷の門が開かれる。ウインドムーアでは朝方に霧が発生することがよくあるらしい。


 前もって参加手続きを行った際に渡された受験票を門番に見せて、受験番号と氏名、武器を持っていないことを確認をして中に通される。


 今考えれば、武装しているとは言え女性貴族三人で徒歩移動をしておきながら賊や獣に襲われなかったのは意外だった。物騒な場所は避けたり、運が良かったりもあるんだろうけど。


 だけど今は、間違いなく危険な場所にいる。怖がってなんていられない。フォードーターズになったら、どうせもっと危険な場所に行くことになるんだから。


 私は97番。欠番を考慮しても参加者は90人を超えているはず。お姉様は…まだ来てないのかな?待合室?に椅子は無いみたい。適当な場所で待てば良さそう。


 服装からして色んな場所から大勢の参加者がこの部屋に集まっているんだって感じる。…中には思いっきり目立ってる恰好の人もいるし。


 って、他人に気を取られてる場合じゃない。少しでも備えておかないと。


 …お姉様の望みが家の将来なら、私とお姉さまのどちらかが選ばれれば良いことになる。私が選ばれれば、お姉様は家族の縁を切ること無く望みを叶えられる。あえてお姉さまが参加する理由が見当たらない。私が養子だから?


 ここの貴族は私たちの世界のとは違っているみたいだし、私が想像しているような血統や見栄とかの問題でもないんだろうなとは感じている。


 あーもう、こういう待ち時間になると余計なこと考えちゃうんだから。移動中にやってたように勉強したことを頭の中でおさらいしておかないと。


 パウリナ「あの…。私のこと、覚えてますか?」


 アカリ「えーっと…もしかして…パウリナさんですか?」


 パウリナ「はい!パウリナ・グリックです。アカリちゃん、覚えててくれたのですね。」


 アカリ「忘れるはずがありません。私の数少ないお友達、ですから。どうしてこちらに?」


 パウリナ「フォードーターズの選抜を受けに来たんです。アカリちゃんもそうですよね?」


 アカリ「え、えぇ。…あの、今はおいくつなんでしたっけ?」


 パウリナ「つい最近8歳になりましたよ。」


 アカリ「…!ご両親は、選抜について何か話されていましたか?」


 パウリナ「うーん、と…頑張れと言っていました。」


 アカリ(そんな、10歳にも満たない子供がどうして軍に入ろうとしているの…!?変に治安が良いせいで、意識がおかしくなっているとでも言うの?)


 パウリナ「…あの、どうしましたか?もしかして緊張なさっているのですか?」


 アカリ「そ、そうですね…。」


 パウリナ「パウリナと同じですね。ちょっと緊張してます。」


 喧嘩腰の令嬢「ちょっと、貴女この子のお知り合い?」


 アカリ「そうですけど…。」


 喧嘩腰の令嬢「幼女が選抜に参加しているって言うのに、何とも思わない訳?」


 アカリ(あ、この世界でもやっぱり異常なんだ。)


 アカリ「えっと、同じ立場に立っている以上は対等な存在として接するべきだと思っています。」


 豪快な貴族「その通りだ!あんた良いこと言った。」


 喧嘩腰の令嬢「はあ?ふざけるのはその装いだけに、いえ、その変態じみた装いも看過できませんわ!フォードーターズを何だと思っていますの!?」


 豪快な貴族「これは俺なりの正装でね。文句あんのかい?」


 喧嘩腰の令嬢「そんな恰好が正装と認められる訳がありません!さては東部の者ですわね?フォードーターズは、西部の部隊ですわよ。」


 パウリナ「フォードーターズになるのに出身は関係ありませんよ。フォードーターズは大陸の希望ですから。」


 アカリ「それに、選ぶのは結局の所クロティルデ家の人間です。制限に引っかかっていない以上はそれを尊重するべきではないでしょうか?」


 豪快な貴族「てか、現職の一人は未成年じゃなかったか?」


 アカリ(えぇ…。)


 喧嘩腰の令嬢「限度がありますわ!誰が危なっかしい者など好んで選ぶものですか。精々、真に相応しい者の邪魔はしないことですわね。」


 アカリ(あの人の言うことも、決して間違っていないんだろうけど…。せめてパウリナさんが危ない目に遭いそうになったら私が助けないと。)


 パウリナ「…ありがとうございます。」


 豪快な貴族「おう。言っとくけど、俺は女でも子供でも容赦しないからな。お互い頑張ろうぜ。」


 パウリナ「はい!」


 アカリ(…この世界で毛染めとかあるんだ。髪とか化粧とか、そういうバンドにいそうな感じがする。いくら異世界でも、こういうのは異質みたいだけど。)


 豪快な貴族「どうした?俺がそんなに変か?」


 アカリ「いえ、その…少々懐かしさを覚えていました。」


 豪快な貴族「懐かしさ?これは意外だな。てっきり、白髪染め以外でこんなことやってんのは俺の周辺だけだと思ってたけど。移民由来でそういうのがあったりするのか?」


 アカリ「いえ、私の知る限りでは西部で普及していません。」


 豪快な貴族「ん?じゃあなんで懐かしいって感じたんだ?」


 パウリナ「もしかして、アカリちゃんの故郷ですか?」


 アカリ「…はい。」


 豪快な貴族「既婚者なのか?」


 アカリ「いえ、独身です。」


 豪快な貴族「じゃあ訳ありってことか。まあ、あんたとは話が通じそうだな。その髪、やってんだろ?」


 アカリ「髪?…あ、これは天然なんです。」


 豪快な貴族「そっか。まあよろしくな、天パ。」


 アカリ「て、天パ…!?できれば名前で」


 豪快な貴族「まあいいじゃねぇか。今、互いの名前を知る意味も大して無いだろうしさ。」


 アカリ(あ、お姉様…。)


 豪快な貴族「…ん?」


 ライアナ「…。」


 豪快な貴族「どうしたんだ?睨み合ったりしてさ。」


 アカリ「いえ、お気になさらず。」


 パウリナ「…もしかして、お姉さんですか?」


 アカリ「どうしてわかるのですか?」


 パウリナ「なんとなく、服が似ているような気がしたので。」


 目立ってる貴族「…言うほど似てるか?」


 アカリ「私たちの衣服は共通の仕立て屋に依頼した物です。ですが、私のはとある既存の服がモデルになっています。見方によって似ていたり似ていなかったりしていても、不思議ではありません。」


 アカリ(ズボンがあるとは言え、私がミニスカを履く日が来るとは思わなかったけど。)


 パウリナ「…あの時の約束、覚えていますか?」


 アカリ「はい。家族であの事を知る者はいません。」


 パウリナ「約束…守ってくれたのですね。選抜が終わったら、今度はパウリナの領地へ遊びに来てください。」


 目立ってる貴族「その時は俺も誘ってくれるか?選抜の感想でも語り合おうぜ。」


 パウリナ「はい。その為にも、アカリちゃんの名前は覚えてくださいね。」


 …


 使用人「お待たせしました。選抜を開始する前に、当主より皆様にお言葉があります。」


 タンサニー「…はじめまして。私の名はタンサニー・クロティルデと申します。クロティルデ家の当主であり、フォードーターズを束ねる立場の者でもあります。」


 アカリ(見るからにおばあちゃんだ…。一体何歳なんだろ?それに、横にいる明らかに使用人とかの類ではなさそうな女性…もしかして、あの人がフォードーターズ?)


 タンサニー「フォードーターズが結成されてからおよそ280年が経過しました。王族から奴隷まで、様々な立場の女性が才能を見出され、入隊し、去っていきました。」


 アカリ(280年…一年が同じなら、多分江戸時代よりも長いことになるのかな?)


 タンサニー「選抜の対象者を限定するべきという意見がありますが、私はなるべく多くの才能が開花する機会を作りたいと思っています。その機会とは何もフォードーターズに入隊する事とは限りません。これから課す課題の意図を想像してみてください。きっと、今後の糧となるでしょう。」


 アカリ(才能…。)


 タンサニー「良い機会なので、質問を受け付けましょう。選抜に限らず、可能な範囲でお答えします。質問のある方は挙手をお願いしますね。」


 アカリ(この世界でも上澄みの権力者から話を聞くチャンスだけど、私の事をここで話さないほうが良い気がする。ここは様子見かな。)

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