風吹く湿原
フォードーターズが所属する国、ウインドムーア。
バレーフォレストとは違って王族が国家元首を務めている。けど、私たちが目指しているのはその配下が統治しているクロティルデ領。
フォードーターズを抱えるクロティルデ家が目立ち過ぎるせいで王家の威厳が損なわれているということで、両者の関係はデリケートになっているらしい。
クロティルデ家の養女も兼ねるフォードーターズに入隊しても名字が変わらないのは、一説にはクロティルデ家がそういった方面に配慮した結果だって言われているみたい。
政略結婚でもなんでもなくただ娘を取り上げられる訳だし、多少の配慮はあって当然かも。…そう考えると、フォードーターズって意外と、野蛮?まあ、政略結婚だって野蛮だけど。
この世界の人間って、基本的には文化的な印象があるけれど、私が置かれた状況がそう思わせるのかな?でも、この大陸の歴史は私の世界の歴史と比べれば平和的なはず。
まずこの大陸はこの星の南極に位置している。そう、ここは異世界の南極大陸とも言える場所。
何故南極なのに氷で覆われていないのかはわからないけれど…白夜や極夜はある。地動説が既に主流になっている位には天文学が発達しているし、ここの人間が間違ったことを言っているとは思えない。
ある程度大陸から離れると氷が浮かんでいて、普通の船ではまず通れないようになっている。そのせいで外部との接触は皆無。大陸の外からの侵略は困難のはず。
そんな南極大陸の自然環境は不自然に配置されている。その上、境目は一目でわかる。その境目が国境になっているから、国境はアフリカ諸国以上に単純になっている。
…この目で見るまでは半信半疑だったけど。
そんな自然環境はここで暮らす人々に影響を与えている。神が各地に存在していると信じられていて、例えばバレーフォレストは国の名前であり、その土地の特徴であり、そこを司る神の名前でもある。
神の土地を侵してはならないという考えが生まれて、国々は国土を拡大しようとせず、神を喜ばせる為に安定した統治になるよう努めてきた。
その結果、小競り合いこそ起こってはいたものの、大規模な戦争はほとんど起こらなかった。戦争をしない分の余力を学問や文化、生活の質などを向上させることに注力していったみたい。
神にはそれぞれ相性があって自分に合った神と巡り合う為に旅をすることが望ましいって教えがあるし、それが自動車も無い割には移動が活発な理由の一つだったりして。
でも、そんな平和な南極大陸の先行きが怪しくなりはじめる出来事が起こる。
それは大陸の外からの移民の登場。
来るはずが無いと思われていた大陸の外の人間が、突如として南極大陸の歴史に現れた。黄色人種が先住民、白色人種が移民として扱われているみたい。
大陸の西端に突如として移民たちの船団が出現した。その時の移民たちは難民とも言えるような有様だったみたい。神が船を大陸に導いたなんて話もあるけれど、実際のところは不明。
詳細が判明すれば、私が異世界に飛ばされた原因もわかるかもしれないんだけれども…。
先住民たちは移民たちを手厚く保護した。移民たちはそのお返しに、自分たちの技術や文化を伝えた。今大陸の大部分で使われている言語には移民の言語が含まれている。日本語で例えると、和製英語やローマ字が近いかな。
やがて移民たちは大陸での要職に就くようになっていった。多分、外の人間というだけで特別扱いされたんだと思う。ハモンド家の祖先もその流れで領主を任命されたみたい。
そして、神の土地が侵される出来事が起こった。
国の権力者にまで上り詰めた移民たちが、突然他国に対して侵攻を開始した。突然とは言っても、移民たちの一神教が熱心に布教されていたりと前兆はあったけど。
だけど、侵攻はあっさり阻まれた。すぐさま包囲網が敷かれた上に、自国の民衆や兵士にまで反抗されて中心人物たちが拘束されたから。
結果的に大参事には至らなかったけれど、この一件で移民を危険視する勢力が勢いを増した。その結果、移民の恩恵を受けてきた大陸の西部とあまり受けなかった東部が対立。大陸は前線と呼ばれる国境を基準に分断された。
その後に魔法が発明されてゾンビの一件が起こるし、こうして振り返ってみると、情勢は不安定になってきてはいるのかな。それでも、一方的な侵略や世界大戦に巻き込まれるよりはマシじゃないかなって思う。
それにしても、この世界には本当に神様がいるような気がする。いるのなら、早く元の世界に帰らせてほしいんだけど…。
…
ノエル「ん〜ここに来たの、何年ぶりだっけ。」
アカリ「あれがフォードーターズのお屋敷ですか…大きいですが、あの形状は…。」
ライアナ「正確にはクロティルデ家の屋敷よ。私たちのとは違って軍事基地も兼ねてるから、兵を収容する為に大きくせざるを得ないのでしょうね。」
アカリ「フォードーターズは少数精鋭ですよね?そんなに空間を確保する必要があるのですか?」
ノエル「それ自体はね。だけど本当に4人だけで色々やってる訳じゃあないんだ。フォードーターズは部隊だけど、その部隊が保有している別の部隊があるんだよ。」
アカリ「あ、4人なのは事実なんですね。」
ライアナ「知らなかったの?」
アカリ「知ってはいましたけど、本当に4人だけで構成されている事が信じられなくて…。」
ノエル「ま、冷静に考えれば人数に対して仕事量が釣り合わないのは明白だからね~。ねえねは超凄腕の狙撃手だけど、それはそれとして射手で構成された部隊持ってたりするし。」
アカリ「狙撃手…あれ程の地位があっても前線で戦うということですよね?」
ノエル「個人差はあるみたいだけどねー。全然戦闘に参加しない後方特化もいたらしいし。」
ライアナ「それに、ここはまともに歩ける場所が限られているから防衛には向いているわね。屋敷がこういう形状なのも、地の利を活かした結果なのでしょうね。」
ノエル「高い建物を建てられる強固な地盤が足りないとも言うね。」
アカリ「この様な土地では資源が限られていそうな気はしますね。」
ノエル「さあ?魔法があればどうとでもなるんじゃない?」
アカリ「あ…。」
ライアナ「いくら便利な力でも、使いすぎればそれこそ世界の敵。程々に抑えてくれているから今の世の中が保たれているのでしょうね。…受付は済ませたことだし、宿を探しましょう。私たちの他に選抜を受けに来た人は大勢いるでしょうし、空きはあるかしら?」
ノエル「あー、それなら良い所あるよ。こっちこっち。」
アカリ「…?」
ライアナ「どうしたの?」
アカリ「あ、いえ、なんでもありません。」
アカリ(あの男は…。)
ノエル「ここからちょっと離れた所だから、はぐれないようにね〜。」
…
ライアナ「ここは…住宅街?宿屋があるようには見えませんが…。」
ノエル「宿屋じゃないからね。えーっと、この辺りだったはず…あ、あそこだ。」
アカリ「…アパート?」
ノエル「あったあった、この扉で間違いないや。所有者は変わってないね。よーし…。」
アカリ(ノックも無く開けて入って行った…。)
ノエル「たっだいま〜あぎゃん!?」
アカリ「先生!?」
女性「ノ〜エ〜ル〜!また勝手にどっか行きやがって〜!」
ノエル「悪かった、悪かったから離してよー。」
女性「悪かっただって!?反省してねぇだろテメェ!」
ノエル「あ〜せめて戻ってきた事くらいは褒めて〜。」
女性「はいはい偉いでちゅねーくたばりやがれ!」
ノエル「なんのーこれしきー。」
ライアナ「…ナニ、コレ?」
女性「やろうっていうの?」
ノエル「求めてくれる限りはね。チュ。」
女性「キモい事言ってんじゃないわよ色情魔。」
ノエル「あー偏見だー同性愛者だからって年中盛ってる訳じゃないんだぞーブーブー。」
女性「あんたは同性愛者であること以前に色々おかしいでしょうが!」
アカリ、ライアナ「!?」
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