第56話
「すごいです、アウルムさん。これなら、月に代わってお仕置きができますね。」
アエスに支えられながら、プラがよたよたと足を引きずりながらやってきた。プリ方式の恩恵が少ないせいか、こいつは俺のように無傷とはいかないらしい。片目は腫れて塞がり、唇が切れて血が細く流れている。紅顔の美少年が台無しだ。だが、中身はまだまだ元気そうだ。よし。今のうちに、敵を倒すぞ。
「月に代わってお仕置きか。となると、アレだな。」
「はい、アレです。」
「アレだよ、おじいちゃん。」
俺は、月に向かって両手を突き上げた。今なら、武器を呼び出せる気がする。
来い。俺は月に祈った。その瞬間、真っ白い光が俺の左右の手元を照らした。ずっしりとした重みが手の平の中に生まれる。俺はその光をぐっと握りしめた。
「よっしゃ、二丁拳銃!」
俺はびしっと両手の拳銃を構えた。間違いないやつだぞ、これは。
ところが、プラとアエスは間抜け面でぽかんとしている。
「おいおい、何てしけた面してるんだ、お前ら。」
「いや、月に代わってお仕置きと言えば、あの有名な魔法少女じゃないんですか?」
「バカ言え。月光仮面だろ。」
風呂敷でもいいからマントを背負いたいところだが、そこまでは出せなかった。
「ボク、それ知らない。」
横に浮かんでいるショコラがぼそりと呟いた。10年ちょっとしか生きていない奴は、これはご存じなかろうよ。白黒テレビの中の英雄なのだから。
「良いか、お前ら。ジジイにはこれが最っ高のヒーローなんだよ。」
「ぜんっぜん知らない。それ、必殺技とかあるの?」
「無い。月光仮面は不殺のヒーロー。疾風のように現れて、疾風のように去っていくのみだ。」
俺はゆっくりと拳銃を巨人に向けた。
月光仮面は、相手が悪であっても殺さない。ぶん殴って、魔法を決めて、この世からきれいさっぱり消しちまうわけじゃない。憎むな、殺すな、赦しましょう、だ。今にして思えば気障な長台詞も多いし、ガキンチョの俺には難しい部分もあったが、痺れるくらいカッコよかった。だから、月光仮面なら、敵の命を奪う発砲はしない。
だが、俺は撃つ。俺はあいつを消さなきゃならない。俺は正義の味方でもないし、正義そのものでもない。あいつをぶっ倒すのも、正義とはまるで関係が無い。ただ、俺自身と決別するだけだ。言い訳無用。俺が、俺自身の責任で、俺の意思で行動する。すべては、俺が引き受ける。
「あばよ、寿美子。」
俺は引き金を引いた。
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