第48話

「あ、お久しぶりです、こば…っと、アウルムさん。」


 背後から声を掛けられ、俺は振り向いた。薄水色のプラが情けない顔をして立っている。望んで来たわけじゃないってのは、よく分かった。


「おう。お前さん、俺んちの軒下で寝てたわけじゃねえよな?」

「違います。自宅にいました。チューハイ飲んだらソファで寝落ちしちゃって。夢見が悪くて目が覚めたから、トイレに行って、ちゃんとベッドで寝直したところです。」


 こいつの自宅は俺の家からそう遠くはないが、それだけで魔法少年になるなら、これまでも毎晩そうなっていただろう。便所という共通項が効いたとも思えん。原因不明か。


「おっと、それより、あいつは新顔だな。とくと拝んでやるか。」


 光が消えつつあるので、俺は腕を組んでそいつの登場を待った。ジジイ、おっさん、少女と来たら、次はババアか?まあ、この世界の見た目じゃ正体は分からんのだが。


 だが、俺はそいつの顔を見て、すぐに誰だか分かった。


「…晴香。」

「えっ?誰?」


間違いない。頭は橙色のクリクリの長髪になっちまってるし、目の色まで橙色だし、ギョッとするような珍妙なフリフリ衣装だが、面影がはっきり残っている。


 こいつは俺の孫の、晴香だ。


 だが、向こうが俺を見て、ジジイだと気付くはずがない。ましてや、一度会っただけの深谷の正体を見破るのは不可能だろう。ここは、黙っておくほうが吉か。俺は一瞬で判断し、そうすることに決めた。


「…じゃなくて、キュア、ええと」

「アエス、です。」


横から深谷がそっと囁く。俺の様子を見て、察するところがあったのだろう。こいつはこう見えて、気が利く。


「そうそう、アエス。ようこそ、プリ方式の世界へ。俺はアウルム。」

「私はキュア・プラティヌムです。長いから、プラで良いです。」

「で、こいつは…」


気付かれると嫌だから言いたかないが、言うしかないか。


「ショコラ。」

「えー、マジ?ショコラ、形も変わってるじゃん。超かわいい。別人じゃなくて、うちのショコラなの?」

「ボク、父つぁんの家のショコラだよ。」


 確かに、孫の家ではなくて俺の家のイヌだが。意外と細かいな、このショコラは。しかし、この奇天烈な宇宙生物が可愛いのか。それでいて、あのイチャネチャしたBL世界も好きなんだよな。女子中学生の感性は分からん。


「俺たちは男だ。ここじゃあ、魔法少年も有りらしい。」

「ふーん。私は別にショタ推しじゃないから、そこまで需要は無いけどさー。悪くはないね。」


晴香、いや、アエスは頭のてっぺんから足の先まで俺たち二人をじっくり検分して、ぺろりと唇を舐めた。悪くないどころか、十分満喫していないか。ケレと同じニオイを感じるぞ。これは、あらゆる意味において、さっさとこの世界から退散した方がよさそうだ。


「悪者がどっかにいるはずだ。そいつを倒せば、夢から覚める。そういう仕組みだ。」

「へえ、そうなんだ。で、リーダーはアウルムなの?」

「リーダーとか、そういうものはねえよ。一応、俺が一番の古株だが、俺だってこの世界の何が何やら、分かってねえんだ。プリっぽい魔法も使えねえしな。」


 そう説明しながら、俺は周囲に注意を払う。敵役はどこだ。虫でも何でもいいから、早く出てきてくれ。戦闘になればそっちに集中するから、俺がボロを出しても気付かれにくいだろう。

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