第49話
だが、俺は既にボロボロ出しまくりだったらしい。
「ってことは、アウルムとプラも、どこかから召喚された人なんだ。えー、どこ中?」
「どこちゅう?」
「どこの中学校か、と言う意味です。」
プラがこっそり教えてくれるが、それは向こうさんにも筒抜けである。どこ中、の通じない相手が中学生であるはずもない。
「あー、もしかして、中学生じゃない…んですか。」
今さら丁寧語にしてどうする。俺が黙っていると、沈黙は肯定とみなされてしまった。まあ、中学生と偽ってもどうせすぐにバレる。これはしょうがない。
「俺たちはいい歳の大人だ。好きでこんな格好になったわけじゃない。この手のマンガに詳しいわけでもない。変な勘違いをするなよ。」
「じゃあ、どうしてここにいるんですか?」
「知るかよ。俺が聞きたいよ。」
これは真正の本音である。
「とにかく、だ。悪者を見つけて、やっつける。俺たちがすべきことはそれだけだ。」
俺は無理やり話題を変えた。これ以上話したくないので、ぴょいと跳び上がって建物の上から哨戒する。四方をぐるりと眺め渡すと、遠くにぼんやりとした人影が見えた。この距離で人の形に見えるということは、相当な大きさだろう。今回は巨人が相手か。サイズは違えども人間をタコ殴りにするというのは、心理的にいささかやりづらいかもしれない。
俺はしゅっと地面に降りて、報告した。
「こっちに向かってきてる。足が速いから、すぐに来そうだ。俺は接近して蹴倒すから、プラは後方支援を頼む。」
「了解です。」
「アエス、お前さんは何か魔法少女ぽい武器を出してみろ。ステッキとか、出せるはずだ。」
「どうやって?」
「俺は出せねえから、知らん。ショコラに聞いてくれ。」
「きゅん、きゅん、きゅぴーんって感じだよ。」
それを聞くのは三度目だ。何度聞いても、理解できん。
ところがどっこい、アエスは一つ頷くと、すっと両手を胸の前で合わせた。ぱん、ぱん、と軽く手を叩きながら妙なステップを踏み、くるりと回ってすっと右手を高く上げる。俺の空耳か、きゅん、きゅん、きゅぴーんと聞こえなくもない効果音が鳴っていたような気もする。ふと見上げれば、アエスの頭の上にはプリ的な棒切れが燦然と輝いており、追尾機能でもあるかのようにその右手の中にすっぽり納まった。
「女性にしかできない神秘の技なんですかねえ。」
「歳の差かもしれん。」
おっさんとジジイは、感心するやら呆れるやら、とにかく真似できないのだけは分かる。
「アウルムさんとプラさんもやってみたら?簡単に出ましたよ。」
「いえ、私は前にそういう動きを試したことがあるんですが、ダメでした。」
そういや、プラは以前に、ケレの動きを真似してもダメだったと言っていたな。俺はやってみたくもない。
「アウルムさんは?」
「俺がやったって、盆踊りが関の山だろうよ。」
「見た目かわいいのに。」
この世界で、それは関係無いらしい。それならばなぜこの格好、と思わんでもないが、ジジイのままでは走るのすら難しいか。両極端だ。
「何にせよ、武器が出たのは重畳だ。それで魔法光線みたいなものも出せるはずだから、やってみてくれ。最終的には、俺たち全員でそれを握って、合体技も撃てると思う。」
「二人ともステッキ出せないのに、よく知ってますね。」
「まあな。前に、他のやつがやってたからよ。」
「他の子もいたんですか。今日は来てないんですか。」
「そうみたいだな。」
俺はぼかした。隠したいわけじゃないが、何と説明したら良いのか、切迫したこの状況ではすぐに思いつかん。そうでなくても、こいつはケレであった田中結愛を知っているのだ。いつか時間がある時に改めて…いや、これは大人の悪い口癖だが、実際に今は時間が無い。
ずしん、と地面が揺れた。無駄口を叩いている隙に敵が来たようだ。予想以上に足が速い。
「来たぞ。」
俺は言って、頭上を振り仰いだ。
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