第15話

 こういう時、耳が遠くなっていれば便利だったかもしんが、生憎と俺は目と耳は年の割に好調だ。おかげで、隣の男の物音が気になってしょうがない。そりゃ、俺だって、あの件に関して無心でいられるわけじゃない。ただ、考えて答えが出るとも思えん。なら、忘れたふりして、さっさと寝て、さっさと出ていくだけだ。俺は暑いのを堪えて頭まで布団をかぶって、無理やり目を閉じた。ガキの頃から、寝つきだけはぴか一なんだ、俺は。


 そうして暗がりで瞼の裏を見ていると、曼陀羅のようなもやもやとした模様が浮かんだり消えたりする。医学部に行った幼馴染に、あれは何だと聞いたことがあるが、スッキリした答えは得られなかった。正体なんぞ分からなくたっていい。瞼を下ろせば模様が見える。そういう理屈があるだけだ。そのうち、眠くなってくる。


 いつもの曼陀羅が広がったり弾けたりする。そのうち、どうも様相が変わってくる。やけにケバケバしく、派手で、ちゃらちゃらして、眩しくて、見覚えがある。ああ、これは、三途の川の新しいやり口だ。最近じゃ、こういう復古版をシン・何とかって呼ぶ習わしらしいから、差し詰めこれはシン・サンズといったところだろう。


「んなこと、悠長に考えてる場合か!」


 俺は怒鳴った。声に出ていた。それも、いつものだみ声じゃなくて、変声期前のボーイソプラノだ。


 あああ。やっぱり。


 俺は目を見開いて、自分の身なりや手肌を検分した。頭からは金色の毛の房が垂れ、ぴらぴらフリフリした衣装が身を包み、か細い手は肌理細かい。どうやら、俺はまたぞろ、プリ方式の夢の中に捕らわれてしまったらしい。原因や理由なんぞ、知りたくたって教えてくれるやつはいない。また悪いやつを倒して、元に戻してもらうしかあるまい。


 そう言えば、ショコラと、ついでにプラはどうなったのだろうか。昼間の時にはショコラは現実の時点で俺のそばにいたわけだが、今は別々に寝ているはず。じゃあ、この夢の中でも出てきてくれないのか。あの不思議生命体は決して好きになれる見てくれではないが、いないとなるとひどく心細い。


「おうい、ショコラ。いねえのか。」

「あのう、私ならいますけど。」


 気弱そうな少年の声に振り向くと、俺と同じようにフリフリの服を着た薄水色の髪のプラが所在無さげに佇んでいた。俺はついうっかり、ガッカリを顔に出してしまった。


「すみません。ショコラちゃんだったら、お役に立てたんでしょうけど。」

「いや、こっちこそ、すまん。」


俺はガリガリと頭を掻いた。現実と違って、髪が豊富にあって、地肌を掻きにくい。

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