第12話
が、プリキュアを欠かさず見ている俺には、ショコラの言わんとするところは分かる。ショコラも俺と共に日曜の朝はプリキュアを観ている。おそらく、頭に思い描く像は同じなのだろう。だが、どうもプラは魔法少女に疎そうだ。何か他の例えを示した方が良いのかもしれない。ええと、変身する男ってぇと、何だ?確か、孫娘がビールだか、エールだか、古い漫画で騒いでいたことがあったな。確かあれは。
「おいプラ、お前、聖闘士星矢とかいうのは見たことねえのか。」
「そっち方面は見てないです。私はドラゴンボール派ですねえ。」
あちゃー。ドラゴンボールなら俺でも知っているが、確か、あれには徒手空拳の野郎どもしか出てきやしない。ん、待てよ。
「そんなら、悟空のつもりで闘え。魔法は、あれだ、ええと、ハメハメハ?」
「微妙に違います。それは童謡です。そうじゃなくて…」
そう言うと、プラは低く腰を落として、ガムゴミを見据えたまま両手を右腰のやや後ろに構えた。
「かーめーはーめー…」
「父つぁん、避けて!」
「はーっ!」
ショコラの叫びで反射的に横っ飛びした俺の脇を、謎の青白い光線が一気に貫いていく。どうやら、プラがつき出した両手の平から迸っているらしい。何だか分からんが、これが魔法なのか。光の筋は真直ぐ飛んで、ガムゴミに直撃している。どうやら、ダメージを与えているようだ。光が収まる頃には、その巨体を重々しく地面に横たえ、動かなくなってしまった。そして、オナモミの時と同じように、少しずつ薄くなって消えていく。
「うわ、うわ、俺、カメハメ波撃っちゃったよ!」
半分消えかけのガムゴミを見ながら、やらかした当の本人であるプラがビビって青ざめている。
「さすが魔法少年だな。ってことにしとけよ。」
「え、あ、はい。でも、魔法少女とか魔法少年って、こういう魔法なのかなあ…。結局、魔法のアイテムを出せなかったですし。」
「良いじゃねえか、終わり良ければ総てよし、だ。」
俺はゴキゴキと首を鳴らし、腰を叩いた。プリキュアはそんなオヤジ臭い仕草はしないが、こちとら中身はジジイだ。ついでの課題も片付けたし、そろそろ目を覚まして現実に帰っても良い頃合いじゃなかろうか。プリキュアだって、毎回の悪役を倒した後は速やかに平時の格好に戻っている。
「あ、アウルムさん、身体が透けてきてますよ。」
プラに言われて、俺は自分の手足に目を向けた。確かに、オナモミやガムゴミが
やられた後のように、透明になってきている。やっつける側も、やられる側も、結局は消えてなくなるってことか。闘いの意味が全く無い気もするのだが、まあ、それで良いか。三途の川の新しい試みなのか、俺の見ている夢なのか知らないが、常識的な意味や理由を求めて得られる場所じゃないんだろう。
「お、ショコラも消えそうだな。こりゃ一安心だ。散歩の続きができそうだ。」
「え、私だけ居残りですか?そんな、殺生な。」
「落ち着けよ、お前も透けてるから。」
「あっ、本当だ。すみません、そうみたいですね。よかったー。」
そう言って胸をなでおろすプラも、俺の横に浮かんでいるショコラも、周りの景色も、だんだんと溶けて境界が曖昧になっていく。それと同時に、俺の意識も混濁してきて、起きているのか眠っているのかはっきりしない。そもそも、魔法少年なんてのが現実じゃないのだから、夢を見る夢を見ていたようなものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます