第11話

「やった!」

「喜んでねえで、お前も参戦しろや。」


 オナモミと違って、一発の蹴りで消える様子はない。すぐに身を起こそうとしている。俺は再度ジャンプして、高所から踵落としを食らわせた。それでもまだ倒せない。


「どぅおらららあっ!」


 横からプラが走り込んできた。昭和時代の漫画のキャラよろしく、両腕をブンブンと振り回している。そのせいか、俺に比べると遥かに足が遅い。勿論、ジジイである本当の俺よりは早いのだが、超人的かと言われると、瀬戸際で普通の人間側にいる気がする。あれ?


 不安に感じて生温かく見守っていると、プラはぽこぽこと両手の拳でガムゴミを叩き始めた。破壊力の欠片もない。さっきの掛け声より、ぱぱのばか~、というぬるいセリフが似合いそうだ。あれ?


「おい、ショコラ。あいつ、手を抜いてるのか?」

「さあ。精一杯に見えるけどなあ。」


 結局、ガムゴミが身体を起こした拍子にプラは振り払われて、すってんころりんと地べたに這いつくばった。ダメだ、こりゃ。たぶん、あいつは武闘派プリキュアを知らないから、魔法少年が肉弾戦をするイメージがないのだろう。


「おうい。お前、殴る蹴るが無理なら、魔法を使えよ。魔法少年だろ。」

「どうやるんですかあ。」

「俺は格闘派だから、知らねえよ。時間は稼ぐから、そっちの探求は任せた。」


 しょうがないので、俺は再度前線に立ち、ガムゴミをボコった。多少疲れるが、こちとら体力も無尽蔵だし、苦労はしない。が、それは相手も同じで、ちっとも消えやしない。殴って倒す、起きたら蹴る、その繰り返しだ。不毛である。プリキュア的魔法少年の絵面ではない。


「まだ閃かねえのか?」


 俺は合間合間にプラに尋ねた。プラは手を前につき出したり、こめかみに青筋立てて「ファイヤー!」とか唱えたり、頑張ってはいるようだが、今のところ効果はないようだ。


「何かこう、魔法の杖とか、宝石箱とか、女子が喜びそうなアイテムを使うんじゃねえの?昔からそうだろ。アッコちゃんとか、サリーちゃんとか、皆なにがしか持ってるぞ。」


 俺には年の離れた妹がいたので、その辺りの元祖魔法少女ものを一通り知っている。例えが古いかもしれないが、50過ぎのおっさんになら多少は伝わるだろう。すると、やはり、プラはしたり顔でうなずいた。


「そうですね。魔法少女と言えば、ステッキとかコンパクトですよね。私らは少年だから、きっと少女とは違う男の子らしいアイテムがあるはず。探してみます。」


 だからと言って、股間を探るな。それは絶対に違う。俺はプラの頭を殴りたくなったが、その暇が無いのでショコラに任せた。


「んもう!魔法少年のイメージを汚すのはやめてよね。」

「あいすみません…。魔法少女と違う部分と言ったらここしか思いつかず。」

「そういう便利アイテムは、どこからともなく出てくるに決まってるでしょ。」

「じゃあ、どうやって出すんですか。」

「きゅん、きゅん、きゅぴーん!って感じかなあ。」


前途多難である。

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