第10話
そこでようやく、俺は目的を思い出した。ちらりと前方を見遣ると、ガムゴミ野郎はもっさりした動きで木や草をなぎ倒して遊んでいる。図体はでかいが、やってることはオナモミと同じだ。
「理屈は俺も分からん。が、とりあえず、あの悪いやつとやらをやっつければ、良いらしい。」
「ホントですか?」
「いや、実のところ、俺もさっき来たばかりで一度も帰れてないから、本当かどうかは分からん。なあ?」
俺は横でぷかぷか浮いているショコラに意見を求めた。
「ボクに訊かないでよ。」
「お前以外の誰に訊けって言うんだよ。」
「あ、マスコットキャラもいるんですね。お名前は何とおっしゃるんですか?」
「ショコラ。うちのイヌだよ。こいつも本来はよぼよぼの爺さんだ。」
「よろぴく☆」
どういう性格になっちまったんだ、このイヌは。俺も、おそらく薄水色も、中の人格は変わっていないのに。どう考えても、ショコラは全く別の生物にされてしまったとしか思えない。早く元の世界に帰りたいものだ。俺はあのしょぼくれたショコラが気に入っているのだ。
「この格好で他にやることもないだろ。とりあえず、目の前の課題を解決するしかねえさな。」
俺はため息交じりに、ガムゴミを眺める。薄水色も背を丸めながら同意した。
「分かりました。じゃあ、先輩に付いて行きます。魔法とか、どうやって使うんですか?」
「魔法は俺も分からん。さっきは、一発蹴ったらやっつけられた。それから、先輩はやめろや。俺は小林だ。」
「はい、こばや…グブフゥッ!」
突如、薄水色が吹っ飛ばされた。敵襲かと思いきや、ショコラがしつこく薄水色を足蹴にしていた。折角の魔法少年が、マスコットキャラによって地に伏せられ、土と砂まみれになっている。どういう世界観なんだ。
「小林じゃないでしょ。こういう時は、ちゃんとマジカルネームで呼んであげて。」
「は、はい、すみません。では、それを教えて下さい。」
「キュア・アウルムだよ。アウルムだけでも良いからね。」
お前の方こそ、俺を父つぁんと呼んでいなかったか。俺は突っ込みたかったが、その前にショコラが俺を睨んだ。
「父つぁんも、こいつのことはちゃんとプラティヌムって呼ぶんだよ。」
父つぁんは良いらしい。その辺だけ、元のショコラが生きているのかもしれない。下手に刺激して、ショコラにまでアウルム呼ばわりされちゃかなわん。俺はこの点については黙っていることにした。
「プラチ、ティ、…んん、長えな。戦闘中とか、急いてるときには言い辛えよ。プラで良いか。」
「資源ゴミみたいだなあ。まあ、しょうがないか。」
本人でなくショコラが許可するというのも腑に落ちないが、まあ、どうせすぐに終わる話だ。俺は薄水色の魔法少年をプラと呼ぶことにした。
「んじゃ、プラ。とにかく、あいつをボコスコ殴る蹴るすりゃ、退散してくれると思う。」
「ジャイアンですね。」
「そうだな。んで、俺らは魔法少年だから、アニメみたくとんでもない身体能力になってる。気を付けろよ。」
プラは立ち上がって、眉間にしわを寄せた。俺と違って、プリキュアのような作品になじみがないと、理解が難しいかもしれない。ジャイアンはタケコプター以外では飛ばないしな。
しかし、言葉で説明して伝わるものでもない。俺は率先して、手本を見せることにした。先ほどと同じように、ガムゴミに向かって猛烈にダッシュ。そして、空に跳躍。ガムゴミはオナモミよりでかいので、さすがに頭上までは跳び上がれない。中ほどのところで、全身を捻って横蹴りを入れてやった。ガムっぽい見た目だが、俺の脚にまとわりつくこともなく、ガムゴミは派手に地面に倒れ込んだ。
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