第8話
「ついでだからさ、アレも倒してからにしようよ。父つぁん、意外と動けるみたいだしさ。」
その珍妙なぬいぐるみ的な外見で、父つぁんときたか。ショコラの本音なのか、この宇宙生物のなせる業か。ギャップは甚だしいが、それは横に置いておこう。
それより、ショコラの言うアレである。言われた方角を眺めると、随分と遠くに何か盛り上がったものが見える。遠目だからはっきりとは分からないが、俺が蹴倒したオナモミとは随分様相が違うようだ。噛んだ後のガムのような、不定形で不快な塊である。ガムと同じ手ごたえなのだとしたら、蹴ったり殴ったりしたい相手ではない。
「おいおい、あれも片付けにゃならんのか?」
「そういうことにしとこうよ。」
「しなくていいなら、するなよ。」
「ほらほら行くよ。」
ショコラは俺の頭にくっついている毛の束を引っ掴むと、ぐいぐい引っ張った。躾を失敗したイヌは、散歩の際にリードを引っ張って、自分の意のままに飼い主を連れ回すが、それと同じか。俺もイヌのショコラには大した躾はしなかったが、そこまでの身勝手は許さなかったはずだ。それが、今はこのザマよ。俺は毛惜しさに、ショコラに導かれるままに新たな敵陣へと誘いこまれている。
近付けば近づくほど、噛んだガム野郎は大きく見えてくる。さっきのオナモミよりもかなり大きい。5階建てマンションくらいの背丈がある。そんなサイズのガムのゴミに、落書きみたいな目口が付いている。ぞっとしないわけがない。
「なあショコラ、俺、あれは嫌だな。ネチョってなりそうだ。」
「分かるー。ガム踏んづけるの最悪だよね。ボクなんか裸足だしさ。でも、魔法少年ならそんなこと言わないで。ほら、あの子が苦戦しそうだから。」
そう言われて、空き地だか公園だか分からない緑地帯に目を向けると、燦然たる光がそこに収束していた。もしかして、と思う間もなく、威勢の良い掛け声が響いてきた。
「遠くから愛をこめて 果てしなき時の彼方に キュア・プラティヌム!」
「はあ、さよか。」
俺は口の中で相槌を呟く。まあ、俺の過去を振り返るに、あいつも望んであんなセリフを叫んでいるわけじゃないんだろう。聞かなかったことにしてやるのが、礼儀というものかもしれん。俺だって、誰かに見られていたのなら、見なかったことにしてほしい。
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