第7話

 プリキュアというのは、魔法を使う小娘たちの総称であるが、あれらは肉弾戦も得意とする。魔法という言葉から連想される、火を出すとか怪物を操るとか、そういった攻撃は行わない。散々殴る蹴るをやらかした後の締めに、毎度お決まりの技を放つだけだ。水戸黄門の殺陣と印籠の流れに似ている。


 となると、俺もひとまずはこの拳で闘えということか。俺は手を握りしめ、オナモミに向かって駆け出した。その直後、超人的な脚力が己に備わっていることに気付いた。走るだけで、景色がとんでもない速度で流れていく。これはきっと、と思って跳躍してみれば、案の定プリ方式で空高く舞い上がれる。急に肉体のスペックが変わって、頭が付いて行かないかとも思ったが、散々プリキュアで事前学習していたせいか、何となくノリで付いて行ける。というか、頭の方も勝手にシフトチェンジされているのだろう。そうでなければ、身一つで2階、3階の高度に浮かんでいて、恐怖を感じないはずがない。


「チェストーッ!」


 俺は掛け声とともに、オナモミを蹴飛ばした。オナモミはあっけなく吹っ飛ばされて、住宅街ではありえないような空き地にずしんと転がる。何の苦労もなく軽やかに地面に降り立った俺は、更なる一撃を加えるべく、体勢を整えた。プリ方式なら、もう少し暴行を加えてからとどめの魔法のはずだ。


 ところが、意外なことに、オナモミが起きてこない。沸き立った砂埃が落ち着いてもなお、身じろぎ一つしない。


「あれ?もう終いか?」


俺はおそるおそる、オナモミの近くまで寄ってみた。こういう時は、敵がこちらの目を欺いてやられたふりをしているのが定番である。が、オナモミはそんな芸当もしないようだ。動かぬ巨体は徐々に透明感を増し、たちまち地面が透けて見えるようになってきた。かと思ったら、パッと光を放って、完全に消え失せてしまった。プリ方式に必須の、魔法の出番がありゃしない。これでは、魔法少年と呼べるのだろうか。いや、ジジイの俺がこんな格好になって、あんな動きをすることそのものが魔法ではあるのだが。釈然としない。


 俺は辺りを見回した。手近なところにショコラが浮かんでいる。


「これで良いのか?」

「うん。」


まあ、こいつがそう言うのなら、そうなんだろう。それなら、さっさとジジイの世界に帰して欲しいものだが、今のところそれらしき変化はない。


「んで、俺はいつ戻れるんだ?」

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