第4話
それにしても、俺は躓いてから随分と物を考えているが、地面に激突するまでそんな時間があるものだろうか。不思議に思ったが、俺の視界は奇妙に歪んでいて、まともに物が見えない。今、自分の身体がどの辺りにあるやら、全く判別できないのだ。それならば今のうちに両手を前に出して、対転倒の体勢をとろうと思うと、それも難しい。頭はこうして回っているのに、身体の方はからきしだ。指一本動かせやしない。
「で、どうなの。早く答えてよ。」
「気の短けえ奴だな。力ったって、色々あんだろが。」
どうやら、声も出るようだ。いや、声じゃないのか。思念、とでも呼ぶべきものかもしれない。俺の考えが外に出て、アニメ声に伝わっているらしい。
「細かく説明してる暇があると思うの?どうでも良いから、イエスって答えなよ。」
「俺にはイエスしかねえのかよ。」
「そうだよ。」
「なら、聞くなよ。」
「一応同意が必要なんだよ。近頃はコンプライアンスとか煩いんでしょ。」
「インフォームドコンセントは要らねえのか。」
「時間が無いから、しょうがないじゃん。」
ちっ。なんていい加減なアニメ声だ。
いや、もしかして、俺はもう既に転んで頭を打って、病院でアニメ声の医者と会話をしてるんじゃないだろうか。となれば、体を動かすことすらできない今の俺は、先生に全てお任せするしかないではないか。
「分かった、分かったよ。お前の言うとおりにするさ。力でも何でも、くれてみろ。」
「了解!」
その途端、俺の視界が真っ白に光り輝いた。かと思うと、鮮やかな桃色の大振りな花が重力を無視してそこかしこで咲き乱れ、それに合わせて花びらが舞い、真田紐だか何だか分からん細長いものがちらちらと周りを飛び交い、バブル期のスナックのミラーボールよろしく色とりどりの光の粒がぐるぐると流れていく。
これは何だ。三途の川の新しい取り組みか。今どき六文銭なんぞ誰も持ってないし、あちらの世の中の仕組みも当世風に変わるのかもしれん。こけたはずの俺の身体は、三途の川か何かの急流に揉まれてあられもなく様々な体位をとらされ、視界は目くるめく光と色の洪水で埋め尽くされる。力がどうのと言われたが、やはりあれは幻聴で、実際には俺は道路に頭をぶつけて死んだのか。死にたかないが、嫌だと言ってもここまで来ちまってるなら、もう抗えまい。俺はただ流れに身を任せて呆然とした。そうするより他にどうしようもない。
やおら川の流れが穏やかになったと思ったら、俺は唐突にどこかに投げ出された。おいおい、何て乱暴な。だが、俺は何故か無様に地を這うことなく、うまいこと両足を揃えて大地の上に立っていた。
「時の流れに身を任せ とこしえの輝きと共に キュア・アウルム!」
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