第7話 私がそばに居るから
「それから私は、この子と仲良くしていれば虐められないだろう、と思う子と仲良くするようになった」
「そうなんだ」
春乃は、真剣に私の話を聞いてくれる。
「空気を読んで、面白くも、楽しくもないのに笑って、自分を押し殺して、他人の顔色伺って過ごすようになった。一瞬で私の世界から、色が消えていった」
「クラスでのあなたは、見ていて辛かった。そんな事があったんだね」
春乃は、そっと私の肩に手を回した。
「昨日、春乃の悪口言われてて、否定できなかった。否定するどころか、"私も"って同意した。嫌われるのが怖くて。笑って一緒になって、悪口に乗ったの。でも、いつもの嘘より、ずっと苦しくて、辛くて……」
春乃の手の温もりが、痛かった。
「私に、傷つく資格なんてないのはわかってる。でも、春乃との出会いがなければ、変化なんてなければ、きっとこんなに苦しくなかった。本当の" 自分 "で誰かと話す楽しさも、本当の友達ができた嬉しさも、知らずに済んだのに。色付いた世界なんてもう、見たくなかった」
ずっと溜まっていたものが、涙と共に、溢れて止まらなかった。
「何も変わらなかったら良いのに。始まりとか終わりとか、出会いとか別れとか。何の…何の意味もない。そんなのがあるから変わってしまう。出会わなければ…良かった」
言ってはいけない事を言った。
私は、心底最低な人間だ──
闇が、沼のように私の足を離さない。闇にのまれていく。
急に、体全体に体温を感じ、私は、春乃に抱きしめられているのだと気づいた。
春乃は、私を抱きしめながら、そっと口を開いた。
「無理に笑おうとすると、余計に辛いよね。あなたの心が少しでも軽くなるまで、私がそばに居るから。───よしっ」
春乃は、勢いよく立ち上がり、私をじっと見つめ、「決めたっ」と両手を合わせ、音を鳴らした。
「ちょうど今日は金曜日なので、明日遊びに行こう。二人で」
キョトンとしている私を見て、春乃は眩しいくらいの笑顔を見せた。
「詳しい事は帰ってから連絡したいし、あなたの予定とかもあるだろうから、取り敢えず連絡先交換しよ」
「え、あ、うん」
春乃のペースに流され、連絡先を交換した。
「あ。言い忘れてたけど、必要最低限の連絡しかしないでね。私メッセージのやり取り苦手だから。" 今何してるの "とか、呉々も送らないように」
「わ、分かった」
こんなに喋る春乃を初めて見た。驚きながらも、新しい一面をしれた事が、とても嬉しくて、涙はいつの間にか止まり、自然と笑みが零れた。
明日が楽しみだ───
夜、家に帰ると早速連絡が来た。そこには「明日10時○○公園の前集合」とだけ書かれていた。本当に要件だけ書かれたメッセージを見て、ふっと声を出して笑ってしまった。
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