第5話 出会わなければ

キーンコーンカーンコーン_


チャイムの音が教室中に響くと同時に


「お腹空いた」

「早く食べよう」


そんな声が次々と聞こえてくる。

私も、いつもと変わらないメンバーで昼食を広げる。


「いただきまーす!」


それを合図に全員が手を動かす。そして、一人の子が口を開いた。


「山中春乃いるじゃん」


「ああ、いるね。それがどしたの」


「いや、山中ウザイなって思う事があってさ。この間、先生に頼まれて皆んなのノートを集めてたの。それで、山中のノート回収しに行ったら、真顔で "ありがと" ってノート渡してきて。礼言う時くらい愛想良くしろって感じじゃない。偉そうなんだよ」


ドクン…ドクン…


(やだ…。なんで春乃なの)


私の心臓は飛び出してしまいそうな程、大きく動いている。体は氷のように冷たいのに、汗が止まらない。


「皆んなも山中のことウザイって思うでしょ」


「思う、思う」


次々と同意の声だけが頭の中に響いて、さっきまで騒がしかった教室が、静まり返ったかのように、私に周りの声は聞こえなかった。


(否定しないと。春乃は、本当はすごくいい子で、優しくて、笑顔が本当に可愛くて。それから…)


「冬花は?」


その声でバッと顔を上げた瞬間、悟った。


何故否定できると思ったのだろう。


数秒前の自分が馬鹿らしく思えた。

皆んなが私に求めているのは、同意だけ。だから私は、笑顔で答えた。


_私もそう思う。


私の見る世界はモノクロでいい。色なんて要らない。やっぱり、変わって、良い事なんてない。変わりたくない。何も変わらないで欲しい。

出会わなければ、こんなに辛くなかったのに。

もう、出会いなんて要らない。私には意味が無いんだ。


ずるずる…ずるずる…


それからの事はあまり覚えていない。ただ、気が付くと、いつの間にか放課後になっていて、私は図書室の前に居た。


「入らないの」


背後から、全身が包み込まれるような、優しい声が聞こえ、視界が歪んだ。


「ごめ…ん。ごめんなさい」


震える声で、そう告げる私を少し戸惑いながら、春乃は椅子に座らせてくれた。


泣き続ける私に、何を聞く訳でも無く、そっと、背中をさすってくれた。


(何か、何か言わないと)


そう思っても、上手く言葉が出なくて。

私はその日、ただ只管に謝ることしか出来なかった。






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