第2話 出会い

ある日の放課後、いつものグループで遊びに行かないかと誘われたけど、気分が乗らなかった。


「あー、ごめん。今日先生に呼び出されてるんだよね」


「そうなんだ。残念。何やらかしたの」


「何もやらかしてないと思うんだけどな。あはは」


相手を不快にさせないように、言葉を選んで、嘘をつく。


(上手く断れたは良いものの、しばらく帰れないな。どうしよっかな)


なるべく人通りのない校舎の廊下をぶらぶらと歩いていると、廊下の突き当たりまで来てしまった。そこには一つの教室があり、図書室と書かれていた。


(この学校、図書室なんてあったんだ。こんな所にあったら誰も気づかないよ。でもラッキー。誰もいなさそうだし、ここで時間潰そ)


図書室に一歩踏み入れると、自分の微かな足音さえ騒がしく聞こえてしまうほどの静かな空気が広がっていた。

私は、この静まり返った図書室に入り、やっと息ができたような気がして初めて、自分が息をしていなかった事に気づいた。


(自分で思っているよりずっと、息苦しかったんだな)


そう感じていると、ズラっと並ぶ本棚の奥から


-パラッ


本をめくる、優しくて心が穏やかになる音が耳に届いた。

音のする方へ向かっていくと、同じクラスの山中春乃の姿があった。


彼女はいつも一人で本を読んでいて、愛想笑い一つしない。クラスでは少し浮いた存在だった。


彼女がいた事に驚き、呆然としていると、本を見つめていた彼女の真っ直ぐで曇りのない目が、私の方へ向けられた。咄嗟にいつものように笑顔を作り、無視することも出来ずに、話し掛けた。


「山中さんだよね。私の事知ってる?」


「…石谷冬花さん」


「せーかい!知っててくれたんだね。嬉しい。てか、私この学校に二年もいるのに図書室があるなんて知らなくてさ。今日初めて知ったよ」


「そう」


その一言で終わらせられた会話は、気まずい空気だけを残していった。


(…よし。せっかく図書室に来たんだし、たまには本でも読もう)


私は本を選んで、彼女の前の椅子に座った。

これが、私石谷冬花と山中春乃の出会いだった。

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