第7話 アップデート

 午前中の授業を終えた昼休み、刹那と龍生は異界領域オンラインのアップデートについて話し合い、謎のパラメーターだった【秘力】がアップデートで実装されることになり、二人はその考察に花を咲かせていた。


「やっと秘力が実装されるな」

「多分、覚醒イベント絡みじゃないか?」

「覚醒イベってあれだっけ? LV50以上の条件で入れる、特殊異界領域フィールドをクリアしないといけないやつだよな」

「そう、それ。刹那はまだ条件満たしてないよな?」

「まだ。龍生と四季は?」

「俺たちはクリアしてる」

「いいなぁ……」

 

 刹那は羨ましそうな表情をした。

 アップデート後、久しぶりに三人で遊ぶ約束をしていたからだ――



 放課後、アップデートでログインできないことを知っていた刹那は、クラスメイトのサッカーの誘いを受け参加していた。


「ここでスルーパスだ!」

「おい、あれは誰も追いつけねぇだろ!」


 サッカー部に所属するクラスメイトの出したボールは、ゴール前のディフェンダー二人の間を抜け、右コーナーに転がる。

 それを見て引き気味にポジショニングしていた、もう一人のクラスメイトが叫ぶ。


「足はやっ……おい、月代があのボールに追いつくぞ!」


 左足のアウトサイドでトラップして、右足のインサイドでボールを蹴ろうとしたが、盛大に空振り、刹那はずっこけた。


「だっせぇ!」参加していた大半のクラスメイトは笑っていたが、サッカー部の生徒は、驚きを隠せないでいた。


「よく追いついたな、そんなに足はやかったか?」

「最近、体が軽いんだよ。成長期なんでね」


 差し伸べられた手を掴み、刹那は体を起こした。


「サッカー部には入らないからな?」

「足が速いだけで誘うかよ」

「それもそうか――」


 そんな様子を、一年生校舎の教室から覗く女生徒が一人いた。

 愛波高等学校は、一年生校舎と二、三年校舎が別れている。

 正門正面に見えるのが二、三年校舎であり、右にあるのが一年生校舎だ。


「どうしたの? 梨奈りな

「あの人、足速いなぁと思って」

「どれどれ? ホントだ。あの人だけ抜けてるね」

「陸上部の人かな?」

「なになに、気になっちゃう感じ?」

「そんなんじゃないけど……」

「それより早く帰ろ? まだ退院して一週間も経ってないんだしさ」


 梨奈という女生徒は頷き、松葉杖を使いながら教室をあとにした――



 時刻は18時半。刹那は帰宅途中に本屋へ立ち寄った。

 運営が過疎化対策に販売した【異世界領域オンライン設定集】を買うためだ。

 山積みにされた本を手に取りレジへ向かう途中、見覚えのある顔を見かけた。あの行方不明事件の被害者、上利雪絵だ。


 退院してたんだ――友加里が綺麗だといってたけど、たしかに綺麗だな。

 しかし、あまりジロジロと見るのも悪いなと、なるべく見ないようにして会計を済ませる。


 そういえば、行方不明事件のニュース、いつの間にか報道しなくなったな。遺体で見つかった同級生は結局どうなったんだ?

 被害者たちは触れてほしくない事件だろうけど、犯人が見つかっていない以上、ここら辺もヤバいんじゃ……一抹の不安が頭を過る刹那だった。


「ただいまー」

「お帰り、お兄ちゃん」


 リビングから友加里の声が聞こえた。

 ふー、とため息を吐きながら刹那は靴を脱ぎ、リビングへと足を運ぶ。


「さっき、上利雪絵を見た」

「誰? それ」

「ほら行方不明になって、同級生の遺体と一緒に見つかった女の子だよ」

「そんなのあったっけ?」

「おいおい、結構、最近の話なんだけどな。もしかして、ボケたか?」

「そんなわけないじゃん。わたしは月代友加里。自分の名前も言えるよ」

「悪かった、怒んなよ」


 友加里の雰囲気を察して、刹那は冷蔵庫を開くとペットボトルを取り出しコップにお茶を注いだ。


「はい、これで機嫌なおしてくれ」

「はいはい、勝手に飲むからそこ置いといて」


 テーブルにコップを置くと刹那はリビングを出て部屋へ戻った。


 そういえば、アップデートはどうなったんだろう。

 PCを立ち上げサイトを開くと、アップデートに伴う緊急メンテナンスが表示されていた。


 復旧の目途は深夜2時……? 今晩中には無理だな。

 ログインを諦めた刹那は、購入した本をレジ袋から取り出しページを開いた。


 内容は制作前のコンセプトや武具データ、登場人物のバックボーンなどが掲載されていた。


 特に興味を惹かなかった刹那は、購入したことを後悔しつつ、いつも通り夕食を摂り、風呂に入って一日を終えた。

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異界領域 対天 アベリアス @kk6225014jps

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