第4話「回顧」

空から降りてきた私たちをホワイトさんが迎え入れた。

「いや~二人とも良い感じだったよ!」

「自分頑張りました!ブルーちゃんも速かったし、何よりフォームがきれいだったよ!」

「私は…………」

 私は頑張っていたのだろうか。

 いや驕っていた。

 実際、最初はフロランスさんのことを見下していた。

 その結果がこれだ。

 たかが1回の負けかもしれない。でも何回脳内で動きをシュミレーションしても、彼女に勝てる未来を想像することはできなかった。

 これから頑張れば彼女に勝てるのだろうか。

 彼女に勝てれば、私にしかないものを再び得られるのだろうか……。

「ウィンディちゃんは面白い飛び方をしていたね。ブルーちゃんはまっすぐで良かったよ。」

「自分褒められて嬉しいです!ありがとうございます!」

「……ありがとうございます」

 私にはフロランスさんのように前を向いて答えることはできず、うつむくしかなかった。

「よし!初日だし今日はここまでにしておこう。ブルーちゃんはちょっとこっち来てもらってもいいかな?」

「……はい」

「せっかくの再会だし、この後食事でもどうかな?」

 食事に誘われたことは嬉しかった。でも今は食事をする気分にはあまりなれなかった。

「……でも、私なんかが申し訳ないですし」

「このあたりに美味しいトラットリアがあるんだ。君と一緒に食べたいんだけど、どうしてもダメかな?」

 そこまで言われると断るのが逆に申し訳なく思ってしまった。

「……わかりました。」

「嬉しいよ。じゃあ、行こうか」

「……はい」

 私はホワイトさんの後をゆっくりと歩いていった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 そのトラットリアは学校から徒歩5分くらいのところにあった。

 お店に近づくにつれ、ピザの焼ける香ばしいにおいが鼻孔をくすぐり、少し食欲がわいてきた。

 二人で店の席に着き、私はマルゲリータをホワイトさんはミートソースのパスタを注文した。

「今日は付き合ってくれてありがとう」

「いえ……」

「君のまっすぐな飛び方を見ていたら、私も昔のことを思い出してね。ちょっと昔話がしたくなったんだ。」

「昔話……ですか」

「そう、私のね」

「ホワイトさんは昔、どんな人だったんですか?」

「大したことのない人だったよ。まあ、変わったところと言えば少しばかり魔道具の開発の能力があってたことくらいかな」

「少しばかりの能力ですか……」

 私からすれば、ホワイトさんの能力は少しなどというものではなく卓越しているものだと思っていた。自分のことを謙遜しているのだろうか。

「信じられないって感じの顔だね。私も最初のころは自分のことをできるやつだと思っていたよ。だが、歳をとるにつれて周りにもすごいやつがいることをまじまじと見せつけられた。だから私なんかの能力は少しばかりのものなのさ」

「そうなんですか……」

「そんなことが分かって、少し落ち込んだりもした。そんなときに何で私は魔道具の開発なんてやっているんだろうって思ったね。それで昔のことを振り替えってみたよ。私はね、漫画で読んだ魔法使いが好きだったんだ。その魔法使いが箒で空を飛んでいる姿にただ憧れていた。それで私は思い出したんだ。私は昔憧れた魔法少女のようにただ空を飛びたかっただけだったんだとね」

 ただ空を飛びたかったか……。

「ブルーちゃんはなぜ空を飛んでいるんだい?」

「……私にはそんな大層な理由はないです。私にはそれしかなかったから。他人と比べてすごい何かが欲しかったんです。それがたまたま空を飛ぶことだっただけですよ」

「……そうか。じゃあ何で他人よりもすごい何かが欲しかったんだい?」

 あれ……何でだろ……。

 私は他人よりもすごい何かを得て、何をしたかったんだろう……。

 褒められたかった?

 それもあるかもしれない。

 でもなんだかしっくりこない。

 私は何をしたかったんだろう……。

「お待たせしました。マルゲリータピザとミートソースパスタになります」

 私のそんな思考を遮るように注文したピザとパスタが届いた。

「よし!とりあえず熱いうちに食べようか」

「……そうですね」

 私は一旦思考をやめ、目の前の料理を口にした。

「う~ん!美味しいね!」

「そうですね……!」

 マルゲリータピザはトマトソースの酸味とチーズのまろやかさが絶妙にマッチしていてとても美味しかった。

 ピザを口にしているときは、色々なことを忘れられる気がして私は熱心にピザを頬張っていた……。


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「よし、それじゃあお腹も膨れたことだし帰ろうか」

「そうしましょうか」

 私は財布からお金を取り出そうとした。

「あ、お金は私が払っておくから気にしなくていいよ」

 少し申し訳なかったが、せっかくの好意を無下にするのも何だか引けてしまった。

「あ、ありがとうございます」

「また君が空を飛ぶのを楽しみにしているよ」

「……はい」

 私たちは店を出て、それぞれの家路についた。

 ふと空を見上げるとすでに夜の帳は下り、あたり一面真っ暗になっていた。

 なんとなく、そんな空をもう少しだけ眺めていた。

 しばらくしてその漆黒のような真っ黒の空の中に小さな星が輝いているのが見えた。

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