第3話「対決」

しばらく歩いた後、部室らしき建物の前に着いた。

 その白いレンガ造りの建物と同化するように、銀髪の女性が立っていた。

 ……ホワイトさん。

 私にMagic Broomを教えてくれた師匠。

 あとで知ったのだが、ホワイトさん、Dr.ホワイトはMagic Broomの開発者の一人らしい。

 そして開発者であるだけでなく、コーチとして教えるのもうまいらしくそれがレティシア高校の人気の高校の理由の1つであった。

 彼女の銀髪がふわりと翻り、こちらに向いた。

「やあ、新入生かな。あ、君はあの時の子かな」

(覚えていてくれたんだ……)

「はい!あの時は空の飛び方を教えていただきありがとうございます!」

「まだまだ空を飛び続けてくれて私も嬉しいよ。あの時は名前を聞くのを忘れていたね。改めて名前を聞いてもいいかな?」

「マルグリット・ブルセーラです!」

「自分はブルーちゃんって呼んでます!」

 フロランスさん、余計なことを言って……。ホワイトさんにそう呼ばれたくはないのに……。

「ブルセーラちゃんか、じゃあブルーちゃんって呼ぶね。君の青い髪とこの青い空に似合った名前だと思うよ。」

「あ、ありがとうございます。」

 今までそんなことを言われたことはなかった。

 青い空、そんな空は私に似合わないと思う。

 こんな醜いブルーな気分な私には……。

「じゃあ君の名前も教えてもらってもいいかな?」

「自分はフロランス・ウィンディです!よろしくお願いします!」

「ウィンディちゃんか。よろしくね。よし!じゃあとりあえず二人で飛んでみたらどうかな?」

「はい!自分早く飛びたいです!」

「……はい」

 かくして私たち二人は一緒に飛ぶこととなったのであった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 白い柄に青い穂の箒、灰色のローブそれぞれに綻びがないかを確認しつつ、私は離陸の準備を始めた。

 箒とローブに異常がないことを確認し、魔力を込め周囲の風を纏わせ始めた。

 ヒュッという音とともに私自身の体が急上昇した。

 ある程度上昇したと思ったところで上からの風を発生させ、ピタッと上昇を止めた。

 一番最初のぎこちない上昇に比べれば、ある程度うまくなったものだ。

 周りを見渡すと彼女はすでにそこにいた。

「やっほー!ブルーちゃん!」

「……フロランスさん」

「すごく綺麗な離陸だったよ!いや~みとれちゃった~」

 彼女は笑顔で褒めてきたが、私自身は今の一連の動作にあまり満足していなかったため素直に喜ぶことができなかった。

「別に大したものじゃないですよ……」

「いや、すごいですよ!自分なんかブォーンといってキキーッって感じですから!」

「はあ……」

 そういう彼女の動きは若干ふらふらと揺れており、あまり操縦がうまくは見えなかった。

(なんで自分のうまくできないことをあんなに笑顔で語れるんだろう……)

 彼女のそういう緩み切った顔に私はむかついた。

(私はこんなに必死に真剣にやってるのに、なんでそんなにヘラヘラしてるの?)

 私はなんでこんなにイラついているのだろうか。

 いったん目を閉じて、気分を落ち着かせよう。

 彼女を視界からシャットアウトし、少し気分が楽になった。

 私にはMBしかない……。しかし、彼女にはそれ以外のものがあるのだろう。

 そんなことを思い、彼女に向いていた怒りはやがて私に向き、心に棘のように残った。

 そして虚しさだけが私を支配した。

「よし!それじゃあ飛びましょう!」

 急な明るい声に私はハッと現実に戻される。

「そうね……」

「それじゃあ、せっかくだし自分とあそこまで飛びましょう!」

 そう言って彼女は500mほど先にあるゴール地点を指さした。

「ええ、飛びましょう」

 彼女は見るからにフラフラ揺れているし、負ける気がしなかった。

「それじゃあ、行きましょう!3、2、1、ゴー!」

 カウントダウンが終わるのと同時に後方に溜めていた風を前方に一気に解放した。

 自分を押し出すように風を動かし続ける。

 そのことだけに意識を集中させてゴールまで一直線に向かった。

 ふと彼女のことも気になり横を向いた。

 彼女は遥か上方にいた。

 彼女の動きがフラフラして見えたのは自分の下に空気を溜めていたからだと今理解した。

 彼女のような飛び方を私は見たことがなかった。

 当然だ。

 上方に行くということは最短距離の直線よりもクの字型のようになってしまい飛行距離も伸びてしまうのだから。

 しかし、とてつもなく速く上昇することができれば、重力を味方にして飛行距離が伸びたとしても速くゴールすることができるのではないか。

 ふとそんな考えがよぎり、さらにスピードを上げるため私の体に力が入った。

「自分!行っきまぁ――――す!」

 そんな声が遥か上からしたと同時に風が横切るのを感じた。

 前を見るとすでにゴールしている彼女の姿があった。

「いえーい!自分ゴールです!」

 負けた。

 私には誇れるものがこれしかないのに……。

 負けてしまった……。

 その事実が重く私にのしかかった。

 そして、私はいつもよりも重く地面に引かれて着陸した。

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