第14話 訪問

 土曜日の昼前。

 カジュアルシャツにジップアップパーカーを羽織った透華は、普段の引き締まった制服姿とはかけ離れた緩めな服装で神音の家に向かっていた。


 先日の神音からの提案、透華は断りたかった。

 しかし、一度協力すると言ってしまった以上、前言撤回することは透華のプライドが許さない。

 それに路上ライブには、かねてより少しだけ興味があった。裏方として路上ライブに関われるのであれば、むしろ好都合だ。

 ただ、歌い手を目指す人間が顔出しをするリスクを神音が考えているのかだけが、透華にとって気がかりだった。


「ここ……」


 透華が足を止めた先には、険峻と聳える一軒家があった。

 表札には「錦戸」と書かれており、神音の家だと分かる。

 一軒家が作り出す陰は透華の全身を覆い、要らぬ緊張を透華に抱かせた。

 

 つけいていたヘッドホンを外し、首にかける。


 インターホンを押すと、繰り返し呼び鈴が鳴り続ける。

 だが、三回ほど繰り返されても呼び鈴に応じる気配が全くなかった。

 

「ここ……?」


 人違いならぬ住所違いの可能性が浮上して不安になるも、押してしまった以上、ピンポンダッシュをするわけにもいかず、後には引けない。

 はぁ。帰りたい……。帰ってビートルズとか聴きたい……。

 

 すると、透華のため息を聞きつけたのか、玄関扉が勢いよく開かれた。

 

「もう! 早く上がってきてくださいよー!」

「……一度だけ説明するチャンスを上げる」

「先輩と神音は同じ夢に向かう仲間。仲間とはファミリー! 神音たち、もう家族みたなものじゃないですかー!」

「そう。あとでお仕置きね」

「えぇ⁈ 先輩いつからサディストキャラに路線変更したんですか⁈」

「うるさい」


 神音の頭に軽くチョップを喰らわせ、透華は何食わぬ顔で家に上がった。

 神音は><を顔に浮かべ、痛みを堪える仕草を大仰に見せつけた。


「そんな茶番いいから」

「ぶー。先輩の鬼、金髪、不良‼️」

「それはあんたでしょうが。はぁ……。あっ、そういえばこれ」

「はい?」


 透華から紙袋を受け取ってすぐ、これが手土産なのだと気づいた。

 神音は紙袋開け、覗き、何心なく中を確認する

 しかし中には、予想も品が入っていた。

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