第15話 再生

「先輩、神音がっかりですよ……」


 肩を落とした神音に導かれるまま、透華は神音の自室に足を踏み入れた。

 『かのんのおへや』と拙い字で書かれたネームプレートが、扉正面に下げられている。


 部屋からは全体的に水色系統の爽やかさを感じた。ベッドに学習机、CDやアルバムを仕舞う棚などが置かれている。棚の上には、見知らぬ制服を着た女の子と神音の二人が映った写真が大切に飾られていた。


 神音は回転式の椅子をくるりと回し、紙袋に入っていたCDを取り出した。


「普通はお菓子とかでいいんですよ……?」

「そ、そんなの知ってる」

「えー、ほんとですか~? もしかして先輩、友達いなかったりして」


 そうだよ! 友達なんてできたことねーよ!

 声に出して叫びたかった透華だったが、自分と違ってクラスメイトと即座に打ち解けていた神音を見ていると殊更恥ずかしくなり、何も言えなかった。

 目を細めてニヤつく神音に、透華は顔を赤らめ沈黙し続ける。

 

「はぁ……。やっぱり神音、がっかりです」

「そ、それは……、ごめん」

「いえ。神音ががっかりしたのはこれ(80年代の某有名ロックバンドのCD)じゃなくて、先輩の凄さを理解して友達になろうとする人が誰もいなかっことにですよ」


 自信が失望されたのではないと何故か安心感を抱いてしまう自分が情けなかった。

 そもそも、こんなやつから尊敬なんてされても嬉しくない。

 私はただ夢を応援するだけの知り合い。いや、もういっそ他人でもいい。

 私は自分のしたいことをして、したくないことはしなくていい。なに弱気になってたんだろ、私。


 透華は内心で呆然とため息を吐いていると、気づけば神音は棚へ移動していた。

 渡したCDを棚に仕舞い、白いCDの入った透明のスリムケースを棚から取り出した。CDの表面には直で、『お気に入り』と書かれている

 立ち上がった神音はCDを持って透華へ近づき、恭しく両手で手渡した。


「これは?」

「聞いて驚かないでください! いや驚いてください‼ これはですね、今はもうネットですら聞くことの出来ない超スーパー天才歌手の名曲なんですよ!」

「ふーん」


 平静な顔を装いながらも、内心、透華は驚いていた。

 あれほどの自信と実力を持っている神音が、手放しに誉めるということは相当の歌手なのだろう。


「ささっ、先輩もこっち来てくださいよ!」


 机にパソコンを置いた神音が、手招きで透華を呼びつける。

 神音がCDを差し込んでいる間に透華は神音の背後に回った。


「じゃあ、流しますね」

「うん」


 神音がマウスを動かし、再生ボタンをクリックする。

 

 流れ始めた音楽は透華の予想通り透華の知っている人物であった。

 だが同時に、その音楽は透華の想像を遥かに超えた代物だった。

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