結成?ひち子過激団

「はーい、ひち子でーす」

「かずよでーす」

「てへっ、だーちゃんです」

「た、たまみです」

「「「「四人そろって、ひち子過激団どぇーす!」」」」

 何故かひっち過激団は女装をさせられた状態で『パピヨン』の従業員として働いていた。

 全く似合っていない厚化粧とドレス姿は違和感しかない。


 そして、残念ながら素敵な女性とは程遠い存在なのは間違いない。

 依頼主の意向とは言え、思春期の男子にこの仕打ちは余りにもきつ過ぎる。

 そもそも法律的に問題ないのかも気になるところだ。

「ちょっとたまちゃん、キリキリ働きなさいよ!」

「はい、す、すみません」

 ひち子がたまみをいびり倒している。

 正直茶番もいいところである。


「働かざる者食うべからずよ! だーちゃんも何とか言ってあげなさいよ!」

「……ひち子が背中を見せるべきね」

「な、何ですって!」

 だーちゃんがひち子に一言物申した。

 それを聞いてひち子が口をあんぐりと開きっぱなしになっていた。

 これもどうしようもないくらいに茶番である。


「ってか、これいつまでやるんだよ」

 一人冷静なかずよが辺りを見渡して、他のメンバーの動きを制止しようとしていた。

 それでも構わずひち子達は奇行を繰り返していた。

「それにしてもたまちゃん、あなたもあなたよ」

「だーちゃん」

「しっかりなさい! それでもこの『パピヨン』のメンバーですか!」

「ふえええん、こんなだめだめな私はおうちに帰りますぅ」

 だーちゃんも結局たまみをいびっている。

 たまみはすっかり落ち込んでしまっているようだ。

 これまたどうしょうもない茶番が続いている。


「あーあ、みんな場の空気に飲まれちゃったのかな」

 かずよが他の三人の収拾がつかなくなったので放置しようとしていたその時だった。

 一人のスーツを着たサンズラスの男がマダム・キサラヅの目の前に座った。

「あーら中野さん、じゃなかったミスターN。今日は何にするの?」

「焼酎水割りを一つ」

 中野さん、いやミスターNと呼ばれた男は早速お店で注文をしていた。

 マダム・キサラヅとの軽快なやり取りと言い、常連なのだろう。


「ねえ、あの子たちどう思う?」

「可愛いじゃないか」

 お世辞にも可愛いとは言い難いひち子過激団を可愛いと即答するあたり、やべーやつであることが伺える。

 サングラスで目つきこそ分からないが、口元を見るとにやけているのが理解できる。


「法律のことが心配だが、いいのかい?」

「いいのいいの、こんなサービスそうそうしないわよ」

 法に触れることを心配するミスターNをよそ目に、マダム・キサラヅはあっけらかんとした態度を取っている。

 法などあってないようなものと言わんばかりだ。

「そういえば、例のお宝の在り処だが」

「もしかして分かったの? 『クリスタルのスケルトン』のこと?」

「ああ、ここに資料がある。受け取ってくれ」

 ミスターNが懐から封筒を出し、マダム・キサラヅに手渡す。

 そばでひち子過激団が耳をすませながら、ミスターNへ近づいていく。


「あらあ、また借りが出来ちゃったわねぇ」

「気にしないでくれ、こうやっていつも楽しませてもらっているからな」

「またたっぷりうちで飲んでってよ」

 マダム・キサラヅが上機嫌でミスターNにボディタッチをしている。

 媚びを売っているというのは明白だ。

「うわあ、やっぱ大人の世界なんだ」

「そうだな、なんか見せつけられちまったな」

 たまみとかずよはそれを見て何となく嫌な感じになってしまった。

 高校生ゆえの純粋さが出てしまったのだろう。


「それで、この後はどうするつもりなの?」

「美形NHとホテルのフロントで待ち合わせ、フフフ、フヒョヒョヒョ」

 ミスターNが明らかに狂ったような笑い声で答えていた。

「ひち子でもあんな笑い方はしないって」

「だーちゃん、ちょっと失礼なんじゃない」

 だーちゃんとひち子がひそひそ話をしていた。

 この人、ミスターNはやばい。

 ひち子過激団の誰もがそう思っていた。

 いや、その場に居合わせた者なら誰もがそう思うことだろう。

 とにかく、『クリスタルのスケルトン』に関する情報が手に入った。

 ひち子過激団が今度はひっち過激団として向かう時が来たのだ。


「さあて、中野さん。じゃなくてミスターNから情報が入ったし、お宝奪還といきましょ!」

 マダム・キサラヅが意気揚々とひっち過激団に話をしていた。

 ひっち過激団は先ほどの女装で疲れきってしまっている。

 みんなげっそりとした顔つきだ。

「少し休みたいな」

「ひっち、珍しく気が合うな」

 ひっちとかずやんが正直な気持ちを話していた。

 特にひっちはノリノリで女装をやっていたため、その反動があってもおかしくない話だ。


「そうね、せっかくだから一休みするのがいいかもね。麦茶持ってくるわ」

 マダム・キサラヅが気を利かせて麦茶を取りに行ってくれた。

 それでもひっち過激団は実質タダ働きなので、全く割に合わないのだが。

「これで、『クリスタルのスケルトン』の在り処が分かったね、ここまでたどり着くのにすごく労力がいった気がするんだけど……」

 たまさんが先ほどまでの苦労を振り返りながらしみじみと呟いていた。

 本当に報われたかどうかまでは誰にも分からない。


「『クリスタルのスケルトン』かあ、こりゃあ中二心をくすぐられそうだな!」

「供物か、あるいは特急呪物のような何かかもしれんぞ」

 思い出したかのようにかずやんがお宝にときめき、そしてだーいしが注意を促す。

「お宝かあ、一体どんな物なんだろな。これをちらつかせたら女の子にモテるのかな?」

 ひっちが勝手にワクワクし始めた。

 女の子が寄ってたかってくるような妄想でもしているのだろう。


「そうとも限らんだろ」

「なあかずやん、女の子って光り物に弱いって聞くけど何でハゲってもてないんだ?」

「知るかよ!」

 ひっちの唐突過ぎる質問をかずやんが持て余している。

「ハゲにも格差がある。モテるハゲとそうでないハゲが……」

「だーいしも話を膨らませなくていいから」

 だーいしがたまさんからさらりとツッコミをもらっている。

 こんな話をしていたら延々と問答が繰り返されてしまうだろう。


「お待たせ、さあどうぞ」

 マダム・キサラヅが麦茶をひっち過激団に渡していった。

「もしかしてこれって中に何か入ったりする?」

「ひっち、それはいくら何でも失礼だよ」

 マダム・キサラヅのことを警戒しているのか、ひっちが妙な質問をしてきた。

 流石に失礼に思ったのでたまさんが指摘していた。

「入ってるけど、マカとニンニクのエキスぐらいよ」

「入ってんじゃねーか!」

 これにはかずやんもツッコミせざるを得ない。


 果たして、マカとニンニクのエキスが入った麦茶が美味いのかどうか気になるところだ。

「滋養強壮効果があるのか、果たして」

 だーいしがゆっくりと麦茶を飲み始めた。

「喉乾いちゃったし、僕も頂きます」

 続いてたまさんも麦茶を飲み始めた。

 二人が麦茶を飲んでいるところをひっちとかずやんが見つめていた。


「どうだったんだ、たまさん?」

「普通の麦茶と味は変わらないよ」

 心配するかずやんをよそに、たまさんがけろりとした顔で答えた。

「たまさんの言う通りだ、心配はいらない」

 だーいしもたまさんを援護している。

 そしてそのままごくごくと麦茶を飲み干してしまった。

「かずやん」

「どした、ひっち?」

「おれたちも麦茶飲んじゃおうよ」

「そうするかー」

 ひっちとかずやんも麦茶を飲み始めた。

 来るお宝奪還作戦のために。

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