奴隷労働の世界

「それでクリスたそ、ディメンションワールドに何かあったのかな?」

「はい、新しい世界が開放されました」

 クリスがモニターを使って説明している。

 新しい世界の名は『奴隷労働の世界』、嫌な予感しかしない。

 ひっち過激団に不穏な空気が流れる。


「その世界、大丈夫なんですか? 色々やばそうなんですが……」

 たまさんが堪えきれずにクリスに質問する。

 無理もない話だ。

「重要度2、緊急度1、難易度2となっています。詳しい部分は私にも分かりません。ですが、過酷な環境であることは間違いなさそうです」

 クリスが淡々と説明するも、他人事のようにしか聞こえない。


「嫌だー、おれはまだ働きたくなんかないよー!」

 ひっちがみんなの前で駄々をこねる。

 嫌なのは何もひっちだけではない。

 ここにいる皆が色々と想像するだけでも気分の悪い話なのだ。


「なんかしんどそうだな、他に行けるところはないのかよ」

「現状ありません」

 かずやんの質問にクリスがバッサリと答える。

 ひっち過激団の希望は閉ざされてしまった。


「我々は辱めを受けに行くこととなるのか……」

「そんなんでしみじみとされても困るんだけど……」

 だーいしの反応に困惑を隠せないたまさんがツッコミを入れる。

 このままでは話が一向に進まない。

 そう思ったクリスが一計案じることとなる。


「ううっ、お、お腹が……」

「どうしたんだ、クリスたそ?」

「お腹が痛いです」

「大丈夫か! クリスたそ」

「このミッションが無事クリアされれば治まる気がします」

 またいつものように演技をしてひっち過激団に見せつけるクリス。

 アンドロイドがお腹痛いというのがそもそも通用するとは思えないが。


「いかん。クリスたそを救うため、ひっち過激団出撃するぞ」

「「「「おー」」」」

 ひっち過激団はいつもと違ってちょっと元気がない。

 とはいえ、ミッションをこなさないといけないので出撃していった。


「行ってくれましたね、皆さんだけが頼りです」

 クリスはひっち過激団を見送り、正直な気持ちを呟いた。

「それにしても動きがぎこちないですね。うーん、これはどこかでメンテナンスプログラムを作動させなくてはいけませんか……」

 そして演技に力を入れることにも余念がないようだ。



 ひっち過激団がやってきた世界は、辺り一面が岩山に覆われた場所だった。

 山にはトンネルが作られており、その中を労働者とトロッコが行き交っている。

 乾いた空気と強い日差しがより殺伐とした雰囲気を醸し出している。

「見るだけで分かる、碌な目に合わなさそう」

「やべー雰囲気がプンプンするぜ」

 たまさんとかずやんが『奴隷労働の世界』の第一印象を呟いた。

 見渡せば見渡すほど気が遠くなっていくのが分かる。


「そうだな、我々の服装が変わってしまっているのに皆気づいているか?」

 だーいしに言われて三人が自分の服装を確認し、衝撃を受ける。

 上下ともにぼろ雑巾のような服装に変わっているではないか。

「なんじゃこの格好は!」

 流石のひっちも困惑を隠せない。


「絶望感に浸らせてくれるためのオプションだろう」

「んなわけあるか!」

 だーいしのボケに近い発言にかずやんがすかさずツッコミを入れる。

「僕たちどうすればいいんだろうね」

 たまさんが問題を提起するも、誰一人として答えられない。そんな時だった。


「おーい、ちみたち」

 後ろから男の野太くなまりが強い声がする。

 少なくとも女性の可愛らしい声が聞こえてくるような場所ではないのは確かだ。

「どうする? 逃げるか?」

「依頼主かもしれんぞ」

 かずやんとだーいしがああでもない、こうでもないと話をしていると男が近づいてきた。


「ちみたちだね。クリスさんが送ってくれたのは……」

「クリスたそを知っている、ということは」

「おらがこの世界の依頼主、レイドだ。よろしく頼むよ」

 レイドは少々腹がでているものの、とても腕が太くたくましい。

 良く焼けた肌に団子鼻とくりくり眼が目を引く顔をしている。

 そして今のひっち過激団と同じく、ぼろ雑巾のような服を着ていた。


「レイド殿、本題だが依頼とは?」

 早速だーいしがレイドに依頼の確認をしていった。

「この鉱山でおらたちと一緒に働いてくれ!」

「はあ?」

 レイドの答えにかずやんが耳を疑った。

 今までの依頼は敵対する存在を倒すものばかりだったので、今回も同じだろうと考えていたかずやんからするとこの依頼内容は意外であった。

 そして、そんなしんどい思いなんてしたくないという気持ちが強かった。


「絶対やだ! そんなんしんどいだろ!」

「働くことに何の意味があるのですか?」

 ひっちが拒否反応を示し、たまさんが理由を問いただす。

「おらたちと一緒に働くことで、この労働環境を改善していきたいんだ!」

 レイドの思いは本物のようだが、ひっち過激団が一緒に働く意味というものが今一つ見いだせない。

 その上、ひっち過激団の誰もが嫌そうな表情を隠しきれていない。


「この鉱山では事故死や過労死する者が少なくない。だから、おらたちでここの労働環境を変えていかなければならないんだ!」

 レイドの発言に震えあがってしまうひっち過激団。

 無理もない話だ。


「これはあれだ。植民地での資源採掘労働と同じだ」

「要はこき使われるってことか?」

「そうなる。そして働く側はまさしく命懸けだ」

 だーいしとかずやんが無慈悲な話をしていた。

 過酷な労働条件でこき使われるのだからたまったものではない。


「心配しないでくれ。ちみたちのツルハシは持ってきてるから」

「そういう問題じゃないんですけど……」

 レイドの余計な心遣いにたまさんが白けたような態度をしていた。

 そうしているうちに、現場の管理者らしき人間が二人ほどこちらに向かって来ている。 

 二人は銃を引っ提げ、手には鞭を持っていた。


「こらぁ、何してやがる! さっさと持ち場に着けぇ!」

「言うこと聞かないならその場で射殺ものだぞ!」

 管理者たちからいきなりの警告があったので、一行は驚いている。

「やべえ、行こうぜ」

 かずやんがいの一番に反応して逃げ出そうとしている。

「そうだな、こっちだ。みんな走って来てくれ!」

「働きたくないよ~」

 レイドがひっち過激団を駆け足で案内するも、ひっちは中々やる気が出ない。

 そんなことはお構いなしに管理者たちが急いでこちらに向かって来るものだから、ひっち過激団とレイドは急いで鉱山の中に向かって行くこととなった。

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