第2話 8年後

 あの日から8年の時が過ぎた。

秋も終わりを迎えようとしていたころ、瑠偉は中学三年生と成長をし受験を控えていた。


 小鳥が朝を知らせるように鳴く。布団から起き上がり、清々しい朝の空を窓から見上げる。両親が残してくれた一軒家を兄弟3人で使っている。


1階に下りればすぐリビングへと続く扉が見える。扉を開けば、そこには誰もいない。机に置いてあるのは、昨日僕が兄弟のために作っておいた料理だ。


「今日も、帰ってないのか。」


僕の両親は、もともと再婚だった。母方から兄の二階堂海斗(にかいどう かいと)と父方から姉である二階堂あかねの腹違いの兄弟である。


そのため、僕は兄弟とは10歳ほど年齢が違う。兄弟は、現在仕事をしており仕事の様子によっては帰らないことが多い。特に兄に関しては、もう1年近くは家に帰っていない。


残された料理たちをレンジで温め、朝ごはんを食べる。寂しとは感じるもののわがままを言ってられないことを自覚している。ゲートの出現から世界は大きく変わった。


 異能を発現する人々は、魔物を退治するために軍に所属するようになり、ゲートの出現だけでなく現在も退治されていない魔物の排除に駆り出される。


 終わりのない恐怖に皆も少しずつ慣れ今では、昔と変わりないとは言えないが安定した生活を手に入れていた。危険地帯に行かなければ基本安全に暮らしていけるようになったことも関係しているのだろう。


兄は、「異能者」として軍に所属し魔物たちを排除している。姉は、父と同じ警察として社会に貢献している。二人は、多くは家に帰らないが僕に優しい。しかし、仕事のことは一切話すことはない。


 きっと、それは魔物について僕自身トラウマを抱えていることに原因があるからなのだろうか。


 朝ごはんを食べ、学校の準備を始める。弁当も自分で昨日作っておいたものをカバンに入れる。兄弟が仕事で家を空けることが多いため僕が基本的な家事全般を行っている。


学校の準備を終わらせ、自転車を使い学校へ向かう。寒さ対策としてマフラーやカイロを常備した。学校の門をくぐればいつもと変わらない学校が姿を現す。


教室には、数人のクラスメートがおり軽い挨拶を交わす。


「おはよう。」

「るい。おはよう。なあ~、見たか。昨日の転校生めちゃかわいくね??」


話しかけるのは僕と同じ学年の高崎だ。明るい彼の性格は、よく人を引き付ける。しかし、少しやんちゃが過ぎる時がありよく先生を困らせるトラブルメーカーでもあった。


「へ~。知らんかった。」

「全然興味なさそうじゃん!るい、お前一度は見てみろよ~」


僕の肩に手をやって肩を揺らす。適当に笑って彼の手をあしらう。


「今日、隣のクラスに行こうな!」

「昼休みでよろしく。」


笑顔で親指を立る高崎。


「おう!」


8時30分になるとクラスの大半が学校に着いていた。教室に入ってくると、皆高崎のところへ集まり挨拶をしながら会話に参入する。


「みんなおはよさん!」


 人が一人二人増えていく。その時、僕の頭の中で映像が浮かび上がる。それは、クラスメート一人一人の視点からの映像だった。複数の映像が頭の中を流れ、頭痛や吐き気を催すほどだった。しかし、その映像はどれも危険な状態の映像だった。


 僕は、既視感を覚えた。それは、僕自身が当時7歳の時に見た父の死の映像の見方と一緒だったからだ。


学校から逃げ出すように生徒たちは、走り出すが人間より細身の体形をした緑色の魔物「ゴブリン」が生徒を素早く俊敏な動きで追いつめている。手には武器を保持しており生徒が対抗できるものではなかった。


映像の中には、逃げれたものいたが僕が見た映像には大半の生徒が逃げる一歩手前で死を遂げていた。


「おい。大丈夫か??」


 高崎は、僕の体調に気づいたのか声をかける。背中を優しくさすりながら保健室に行くように促す。


「いきなり顔色が悪くなってるぞ。保健室いくか??」


 高崎の優しさに甘えることにした。


「すまない。ちょっと保健室行ってくる。」


その間、クラスメートと目を合わせることはなかった。


 僕は、ゲートの出現から時々目に入った人間や生物の未来が見えるようになった。僕自身その力を制御はできず、意識的に異能を使用することができない。突如、未来を見てしまうことが最近よく増えるようになった。3年前までは、1年に一度見るか見ないかの力だったがここ最近では、1週間のうち1度は見るようになった。


 そんな能力も見る未来の場面は、バラバラである。人が多いところで未来を見てしまうと意識を失うほどの負担がかかる。


「これは、やばい。。。」


 今、見た未来は確実に起こる。また、多くの被害が出る。あの頃の記憶が僕をむしばむように思い出す。頭痛も吐き気を催す中で僕は廊下を歩きながら頭を巡らせる。


廊下を歩き続けると保健室へと到着した。扉をスライドさせ開ける。まだ、先生の姿は見えない。ベットに座り、気分を落ち着かせる。


 少し、体調を回復させたところで映像の記憶を思い出させようと瞳を閉じ場面を想像させた。生徒たちは、授業中の中突如のゲート出現によって魔物に襲われていた。


「もっとあったはずだ何かが。」


 ゲートが開くクラスは、確実に僕のクラスで間違いない。だが、僕がいきなり危ないからといって先生や生徒全員が外へ避難はしないだろう。時間帯すらわからない以上簡単に避難させるのは困難だ。それに今日でない場合も考えると警察や軍に助けを呼ぶのは得策とはいえない。


「まて、確かあれは葛西先生の授業だったな。」


 ある生徒の映像には、不確かではあるものの葛西先生の古典の授業を受けているシーンが見えていた。


何かもう少しあれば、、、


その瞬間、葛西先生の服を思い出した。葛西先生は基本おしゃれなおばあちゃん先生の印象が僕の中である。彼女は、いつも服が違う。それを確認できればいつかわかるはずだ。


 気分もだいぶ落ち着き始めた僕は、職員室に向かうことにした。もう、朝の挨拶は始まっている。もし、今日ゲートが開いたとき時間はもう20分もないだろう。それは、葛西先生の授業は1時間目なのだから。


急いで職員室に入る。


「失礼します。3年2組の二階堂瑠偉です。葛西先生いらっしゃいますか?」


先生たちは、僕の方を振り向くと葛西先生が椅子から立ち上がった。


「どうしたの?あれ、今朝の挨拶始まってるんじゃない?」

「やっぱり、、、」


ビンゴ。ゲートが出現するのは今日だ。特徴ある、紫のセーターは先ほど目にした映像の一部と合致していた。急がないと。


「あの、高崎が先生を探していたので。こちらにいらしゃるか確認したかっただけです。」

「あら、そうなの?高崎君は?」

「今、保健室で寝ています。後で、確認してもらっても大丈夫ですか?」


すまない高崎。高崎の名前を使い言い訳をする。

職員室を後にする。しかし、安心はできない。これから起こることに対して避難を促さなければならない。


廊下を眺めていると目の先には、消火器がおかれていた。


「火事か。。。。」


 頭に浮かんだのは、放火だった。火事が起こればさすがに学校も生徒全体を避難させないといけない。考えてる時間はもうない。授業が始まるのに15分を切っていた。僕は、もう一度職員室に入り、理科化学室のカギを借りることにする。


「失礼します。先生。理科化学室のカギを借りてもいいですか?」

「おう。いいけど。今から使うのか?」

「いえ、田中先生からフラスコを取ってきてほしいとお願いされたので、」

「ふーん」


嘘を重ね申し訳ない気持ちにもなっていたが、僕はまたあんな光景を見たくはなかった。きっと、また魔物が押し寄せてきたら何もできないままいなくなるだろう。


鍵を取り走って理科準備室に走り出す。何人かの先生にすれ違ったが挨拶をしている暇はなかった。緊張感が走る。もう時間が限られている。


 理科準備室を開きすぐさまにエタノールを探す。よく燃える方が先生すら近づきにくくし火を消しにくくするためにエタノールをばら撒く。十分にエタノールを教室に撒いた後、引き出しに入っているマッチを取り出す。残りの時間は3分しかない。これでは、逃げられないのでは、ないだろうか。


 考える暇もなく体はすでに動いていた。火をつけたマッチをエタノールをばらまいた付近に投げ捨てた。すぐに教室から出て鍵を閉める。


僕の考えていたよりも速いスピードで炎は、教室を焼き尽くしていた。


すぐに廊下にある警報機のボタンを押し階段を駆け上がる。学校中が警報機の音で鳴り響く。ポケットに入っているスマホを取り出し、119の電話をかける。


「火事ですか?救急ですか?」

「奈幡にある南中学校でゲートが開きました。たすけて!」

「状況を教えてください。」

「ゴブリンがゲートから現れ生徒を襲っているんです!もうだめだ、、、きり、」


 電話をしすぎるのは良くないと判断しすぐに通信を切った。

生徒たちは先生の指示によって皆グラウンドへと集まるように走らずに落ち着いた様子で階段を下りていく。僕の予想では、そろそろゲートが開くはずだったが魔物の気配は全くしていなかった。


「どうゆ事だ。そろそろなのに。」


僕も先生からバレない程度にゆっくりと階段を下りていく。

それと同時に、校長の声で放送が流れる。


『えー、皆さん現在理科準備室で火災が発生しています。落ち着いてグラウンドに集合してください。』


「気を付けてグラウンドに集合しろ!!!!おはしもだぞ!!!」


 グラウンドには、全校生とと思われる多くの生徒が集合していて。先生たちは、全員が集まっているか確認をするように促す。




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