第11話 盛り上がる会話
積極的に声を出した秀真を、洋子、康夫と春枝、安野が「おや?」という顔で見やる。
「私は祖父母ほど札幌に来ていないので、それほど観光できていないんです。北海道は居酒屋のホッケとかも美味いんでしょう? もし良ければ、ご馳走しますから夕食もご一緒しませんか?」
格好いい男性に食事に誘われ、花音はドギマギして言葉を迷わせる。
「え……えと……」
「いいじゃない、花音。秀真さんを案内して差し上げなさい? 秀真さん。この子ずっと彼氏がいないんです」
「おっ、お祖母ちゃん! だから! も~!」
ボッと真っ赤になった花音を見て、全員が笑う。
結局その後、四人で病院を出て札幌駅に向かう事になった。
病室を出る時に、春枝が洋子に向けて告げる。
「洋子さん、可愛いお孫さんのためにも勇気を出してね。もしかしたら、ひ孫の顔が見られるかもしれないわよ」
誰の事とは言っていないが、自分の事を言われた気がして花音は赤面する。
が、「勇気を出してね」という言葉が気に掛かった。
一度は廊下に出たものの、花音は病室の方を振り向く。
春枝は出入り口の所に立っていて、洋子に微笑みかけている。
洋子はいまだベッドに座ったままだったが、何か迷ったあとに春枝に向けて「考えておくわ」と頷いていた。
花音が病室に着いたのは十五時半ほどで、秀真たちと三十分ほど話していた。
花音はいつものように列車で移動するつもりだったのだが、春枝が「タクシーに乗って行きましょう?」と言うので、その移動手段に付き合う事にした。
病院前のタクシー乗り場で、春枝は、「秀真は花音さんと乗りなさい」と言って自分は康夫とタクシーに乗り込んでしまった。
「じゃあ、花音さん。私と二人で……ですが、乗りましょうか」
「は、はい」
二人でと強調されると、恥ずかしくて緊張してしまう。
秀真は車の上座である、運転席の後ろに花音を乗せた。そのあと自分も隣に乗り込み、「札幌駅北口までお願いします」と告げる。
タクシーが発進し、花音は緊張しつつも秀真に話し掛けた。
「秀真さんは、札幌は何度目なんですか?」
会話を振られ、秀真は嬉しそうに微笑み返事をする。
「子供の頃は祖父母に連れられて何度か来ましたね。でも如何せん昔なのでそれほど覚えていないんです。それに札幌も近年グッと変わってきたでしょう? そうなってから来たのは、一、二回じゃないかと思います。それも、祖父母と一緒に洋子さんを訪れるのが目的でした。週末に来て洋子さんとお話して夕食を取り、すぐ帰る……みたいな感じでしたね。日曜日は出勤前なのでゆっくりしたくて」
「そんな中、来てくださってありがとうございます」
彼が何の仕事をしている人かは分からないが、高級そうなスーツを着ているし、立ち居振る舞いも品があり洗練されている印象がある。
康夫と春枝も裕福な老夫婦という雰囲気だし、恐らく秀真も一般のサラリーマン以上の地位のある人では……と、考えてしまった。
(いや、でも初対面の人の職業を気にするとか失礼だから、あまり考えすぎるのはやめよう)
すぐ心の中で反省し、花音は秀真に微笑みかける。
「多忙に過ごさせてもらっているのですが、そんな生活の中、クラシックを聴いて読書をするのが趣味なんです」
「分かります。落ち着きますよね。ネットとかも便利なんですが、あまり見過ぎていると頭が疲れてしまうというか……」
「ですよね。仕事で嫌というほどパソコンに向き合っているので、休憩時間ぐらいは好きなものにどっぷり浸かっていたいです」
笑い合い、花音は音楽について話題を振ってみる。
「秀真さんは、やっぱりピアノソロがお好きですか? オケとかも?」
「そうですね。オケとピアノソロをよく聴いて、その次に弦楽器ソロやカルテットなど、オペラなどはあまり聴かないです。リラックス目的なので、歌が入るとどうしても気が逸れてしまうんです」
「あぁ……、私も大体同じです。最近、興味を持って和楽器系のCDなども聴いています」
「津軽三味線とか格好いいですよね。箏も奥が深くて、まだまだ勉強が足りないのですが、一ファンとして、沢山聴きたいと思います」
「私もです!」
すっかり意気投合できて嬉しくなり、花音ははしゃいで笑顔になっていた。
そんな花音の顔を見て秀真が微笑んでいるのに気づき、彼女はハッと顔を前に向ける。
「す、すみません。はしゃぎ過ぎました」
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