義兄妹の恋愛ってありですか?

「お兄ちゃん近い、どっか行って」

「どっか行ってって、ここ俺の部屋じゃん」

「関係ないし、居心地がいいんだから仕方ないじゃん。お兄ちゃんがこんな部屋にしたのが悪い」

「いや、意味わかんないし」

ベッドに横たわる私。

その下に座る兄。

邪魔くさくて仕方ない。

「自分の部屋あるんだからそっち行けよ」

「移動するのめんどうくさい」

「だったら俺が連れてってやるから」

「えええ~、マジ無いわあ……」

「こっちこそマジねえよ」

だっさい私服の兄。見ているだけでも腹正しいほどのファッションセンスだ。

「お兄ちゃん、彼女出来た?」

「出来てねえよ。うるせえな」

「だっさ。だってお兄ちゃん誰からもモテないもんねえ~」

「いい加減にしろっ」

「あ、はあ~なあ~せえ~っ!」

「動くんじゃねえよ阿呆。落ちるぞ」

お姫様抱っこされての移動。

ほんと最悪。

私の部屋を開けて、ベッドに放り投げられた。

「女の子を投げるとかほんと最低ッ」

「何噛みついてきてんだよ。マジで頭おかしいじゃねえか?」

「頭おかしいのはお兄ちゃんじゃん、ばああかッ」

「面倒くせえ」

そう言って、お兄ちゃんは部屋から出て行った。

しんと静まり返る私の部屋。ベッドに倒れ込み、枕に抱き着く。

そして。

「…………はああ~~~~……好きいいいいいいいいい~~」

私は枕に顔を押し付けてそう口にした。

「もう好き好き好き、超大好き。何あの不貞腐れた顔、最高じゃない。嫌味な顔、面倒くさそうな顔、しかも私のお尻らへんをチラチラチラチラ視線を向けてくるのほんと可愛い。やっぱショートパンツにしたのは正解ね。ベッドのにおいも部屋のにおいも良い香り。私の好きなラベンダーの香りじゃない。前は臭いとか何とか言ってたのに、急に変えるって私の事気遣ってる証拠じゃない。しかも私をお姫様抱っことか、うざいとかムカつくとか言っておきながら普通に優しく私を扱ってくれるんだからほんと最高ッ。柔らかく、大事に抱えるとかほんと萌える。あの力強い腕と筋肉。あいつには勿体ないくらいカッコ良い身体してるわほんと。ベッドに放り投げるときも雑さや適当さが無くて、気遣うようにそっと投げるんだから優しいったらありゃしない。ほんとカッコいい、ほんと可愛い~~♡」

と、早口でそう言っていた。

「義理の妹の特権ね♡」

お父さんの娘、お義母さんの娘。

私が小学生四年生、お兄ちゃん五年生の時に両親が再婚して兄妹になった。

一目ぼれだった。一目見て、私はお兄ちゃんに恋をした。初めは好き好きってめっちゃアピールしてた。仲が良くて一緒に遊んでいたけれど、お兄ちゃんが中学生になってからつんけんして取り合ってくれなくなった。思春期だからとお義母さんが言ってくれたけど、私は悲しかった。

お兄ちゃんは優しくてカッコよくてガタイも良いから、彼女ができないかいつも不安だったけど、この方彼女が出来たことは一度もない。

今も不安だけれど、何度も何度もああしてお兄ちゃんにアピールしている。こっちに全然振り向いてくれないけれど、絶対に振り向かせてやるためになんだって手段を講じてやるんだから。

「今度はどうしよう」

お風呂上りにバスタオル一枚で出たこともある。流石に両親から怒られたけど。

いっそ下着姿で直行するなんてどうかしら。

「それもいいね。今度やってみようかな」

お兄ちゃんを落とすなんて多分簡単だ。

今もこうしてひとつ屋根の下で暮らしているのだ。お兄ちゃんに彼女ができない限りはチャンスがある。

「新しい下着の下調べしなくちゃ」

スマホを持ってネットを開く。

スケスケ下着なんてものがあって、想像して流石に恥ずかしかったけれど、これもいいかもと画面にブックマークしておいた。

今も筋トレや運動も欠かさずにして体型の維持。化粧だってなんだって。

「覚悟しててよねえ、お兄ちゃんっ」

俄然やる気が出てきた。

お兄ちゃんが私のものになるまでもう目の前だッ。


「はあ……」

扉を背後にして、後ろから聞こえてくる妹の言葉を耳にしていた。

アイツが俺に対して好意を寄せていることなんて小学生のころから知っている。ただ知らない振りをしていただけ。あいつが俺に対して頑張っているところが可愛くて、どんどん愛らしくなっていくあいつを見ているのが愉しくて、でも好きであることを告げていないだけ。本当はめちゃくちゃ好きだ。めちゃくちゃしたいくらい。

「はあ……」

二度目のため息。

静かに立ち上がって、ゆっくりとした足取りで部屋に戻っていく。義父さんと母さんにはこのことは告げていない。妹がやたら好きだ好きだ言うからもはや返答するタイミングが解らなくなっているほどだ。両親もやたら推してくるから、意地になって嫌いな振りをしている始末。

ベッドに突っ伏して、隣から小さく響いてくる妹の声に聞き入りながら。

「俺だって好きだ……」

そう小さく答えるのが精いっぱいだった。

クローゼットを見る。

本当は店に行ってそれなりのカッコいいと思う服を買ってきてはいる。靴だってそこにしまい込んだままだ。少し毛が出てきた身体を、義父さんの髭剃りを黙って借りて剃っている。いつかは脱毛できたらいいなとか思いつつ貯金をしている。

「はあ、伝えてしまいたい」

筋肉や体力も、部活に行っていなくても付いているのは、ウエアを着て筋トレ、ランニングをしているからだ。朝早くから家を出て、帰ってきてはシャワーに入る。それを毎日欠かしたことはない。あいつは知らないが、俺だってそれなりに努力している。

「努力の方向性が少し間違っているけどな」

だったら素直にあいつに好きと告げてやれ、と言う話だ。

「はあ……」

日に日に可愛くなり、日に日にアプローチが激しくなるアイツ。部屋に来てわざわざ文句を言いに来るとかどんだけ俺のこと好きなの、と。

「あいつもあいつで素直じゃねえなあ」

隣でワイワイしている妹を想像するだけで、俺は顔が熱くなるのを感じる。

「なんかヤバいかも」

隠れて致すことが日に日に増えていた。

中学生になってからより身体に異変を感じるようになって、あいつから距離を取り始めたが、正直理性が持つかどうか怪しい。

「もし好き同士で付き合い始めたらどうなっちまうんだ?」

さっき考えた、めちゃくちゃにしたいってのがもっとひどくなって、悲しませる? それとも悦ばす? 嗚呼、考えただけで嫌になる。変態だ。

「はあ……」

四度目のため息。

全部あいつに対するもの。

「好き……」

枕を抱きしめて、チューの練習。

「お兄ちゃん、ちょっとデー、じゃなかった。一緒に買い物に行ってほしいんだけ、ど……?」

枕にチューする姿を見られた。

「な、何してるの?」

若干ながらに震え声。

流石に気持ち悪がられたか。

「えっと、枕にチッスを」

「お義母さ~んッ!」

と、涙声で行ってしまった。

「ちょ、おいっ」

追いかける。

彼女が出来たのかと言われた。

彼女が出来た時のための練習を、と言った。

妹がきもッと言っていたが、安堵している様子を見逃さない。

夕方。帰ってきた義父さんに話す妹。

飛んでくる檄。また説明。

笑う妹と母さん。

勘弁してくれ、そう思いながらふっと笑った。

もう少しだけこの時間を過ごそう。

いつか俺から告白したとき、その時の妹の反応が楽しみだと、驚く姿と涙する姿を想像しながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る