私、節約大好き♪

節約は世の中では必須のスキル。

無駄にお金を使えばその分将来に響く。

だからこそ無駄を省き、貯蓄を蓄え、将来のために備える。

「十円落ちてないかなあ」

私は自販機の下を見た。

きらりと光る何か。

「おおっ」

埃や蜘蛛の巣が散らばった自販機の下に手を伸ばして、光るコインに手を伸ばす。

「よっしゃっ、十円ゲットおっ」

周囲をギラギラと確認してから、十円玉を財布の中に入れた。

「これで財布の中は、えっと、千円になったかな」

休日。

目につく自販機の下に入ってはお金を探っていた。

ウオーキングするだけでお金が増えるアプリを入れて以来、暇さえあればいつも歩いている。家の中にだって歩いている。狭い部屋をグルグルグルグルと。

家もそれほど高くない、家賃の低い家だ。価格にしてなんと一万円。そして三食昼寝付きの生活スタイル。お風呂とトイレが一体型という効率的なもの。小便なんて、別にトイレで流す必要はない。バスタブの中でやって流せば済む話である。トイレットペーパーも大便以外は使わない。勿体ないし。雑巾やタオルは百均やリサイクル場でもらってきて使い回す。それで充分なのだ。電気も夜遅くまで使わない。冬は着こむし、夏は素っ裸で過ごせばいいだけなのだ。窓を網戸にして、蚊取り線香を焚けばいいだけなのだ。

「びば、節約生活」

女なのに魅力がないとかいう奴は言わせておけばよい。先のことを考えた時、老後も含めると多大なお金がかかるのだ。若いうちに節約を身につけておかないと、困るのは自分なのだから。

「高価な服や食べ物は別に必要ないっ、うん」

朝と昼のご飯も抜き、夜ご飯は精進料理みたく質素で十分。健康的で良いではないか。味気ない生活と言われようと、この節約生活や変えられない、変えたくない。やめられない。これほど楽しい生活、他にあるだろうか。

スマホを見る。

今月は給料日。

はてさて、どれだけの収入が入ってくるのかな。

アプリを開き、銀行の残高を調べる。

「おおっ!?」

一千万を超えていた。

ビバ不労所得。

「はあ、これで数十億円は溜まったなあ」

不動産、投資、仮想通過――。

総資産百億は軽く越えている。

嗚呼、気分良し。

「これで後は私と似たような人が、素敵な人と出会えたら最高なのになあ」

これまでの人生で一度として出会いの無かった私。

こんなにも美人で節約と家事スキルがあって、しかも稼ぎが良い人なんてまずいない。夫が働かなくても生きていける時代なんて、しかも私が養ってあげられるなんて、相手はどれだけ運がよく幸せな人間なのだろう。

「合コンにでも行こうかしら?」

思い立ったが吉日。

すぐさま行動。

一々悩んでいる時間が勿体ない。それが時間節約術。

「えーっとここがいいかな?」

目についた、ピンときた合コンのそれを見て、私は早速そこにエントリーする。

「よし、それじゃあ準備しよう」

そして当日になった。

合コンについて調べてみたが、少々お金のかかる方法ばかりだったので、渋々ユニクロで買った服を着て合コンに挑んだ。

皆が自己紹介する中、私の番が来た。

「節也好子です――よろしくお願いします」

そう元気よく挨拶した。けれどどうもウケが良くない。

自分の職業を交えて、不労所得ですと言ったけど、どうも関心が薄い。総資産がいくらなのかも伝えても、笑われた。

――おかしいな、と思いつつもまずは情報収集。

みんなの話を聞きながら、それに合わせた相槌をする。

飲み物を注いでみたり、注文を取ってみたり、私にできることは何でもやった。色々な分野の情報をSNSや資格勉強で学んでいる。全てとは言えないが、勉強には自信がある。

目の前に座る人は音楽関係の人らしい。しかも趣味で曲を作るほど。

クラシックから現代にいたるまで、色々な話を振ってみた。現代的な話が食いつき三体だったので、そちらの方向で話を進める。

「ヘヴィメタって五月蠅いし何に言ってるか解んないからムカツク」

という批判的かつ悪口も言ってきたが、やんわりと話をしつつ流した。私は別にどうも思っていない。

テンションの上げ下げ、低い声の表現、重低音かつ響き渡るような音が身体の芯にまで伝わってくるその感覚が面白いのではないか。

そういう意味では、この人は暗い人なのだなと、感じてしまった。

とはいえ、そう言ったのはその一言だけ。そうした本音を引き出すのもまた会話の中のテクニック。一回の邂逅で相手を知るのもまた効率的に関係性を築く時間効率化と節約術なのだから。相手を知ることほど、余計な時間を生まなくて済む。

隣の人が私に向けてくる嫉妬めいた視線があるが、それもまた一つの付き合い。ドロドロするくらいなら真っ向から突っ込んでって壊してしまった方が楽な時もある。

「あなたは音楽とかどう?」

話を振られて眉を動かす女性。

「そうね。私はKポップが好きよ」

「韓国特有の華やかな音階と雰囲気があっていいよねえ」

「そうね」

「有名どころだとBTSとか」

ぴくッと反応した。プラスの方向で良い感じ。

「かっこいいよねえBTS。誰が好き? 私はJIN君だねえ」

「私はSUGA君が好きよ」

と、彼について熱弁してくれた。

今日は三対三の合コン。

今度は相手側の男性に話を振り、その奥側と色々話をしつつ全体を巻き込んでいく。何か相手が言ってくれればそれに関して話題を広げるだけ。不平不満があるなら言えばいい。それも全部受け止めて話をするだけ。

「にしても節也さん、はじめに会ったときから思ってたんだけれど、何でユニクロ?」

空気がほんの一瞬だけ止まった。

当然だ。他の人たちは綺麗におしゃれをしているのに、私はユニクロで簡素だ。

「私が着る服って基本古いものばかりだからねえ。けどさあ、どうよこれ」

と、見せる。

なんと奮発して付けピアスまでしているのだ。

腕時計だって、ほんの少しお高いものを使っている。

「どうって、なんか地味かなあって」

「あ、やっぱり? 先を考えるとねえ、銀行に預けてる大金を使うのって気が引けちゃうのよ。貯金も趣味だし」

「大金?」

女子が言う。

「挨拶で言ったでしょ? 資産の話」

それを聞いて、彼ら彼女らは驚く。

「え、それって本当の話だったの?」

「そうよ? お金が増えていくのって嬉しくない?」

そう言うと、目の色が変わりだす。

「それはすごいですねえ」

「……うん」

「俺もお金持ちになってみてえ」

「何ならこの後、皆で二次会でも?」

「俺さんせーッ」

と口々に言い始めた。

やっぱり対話ってのは楽しいわね。

人の色んな部分が見れて面白いわ。

「私の部屋見てみる?」

そう言ってスマホを見せる。

のぞき込む五人。

全員絶句。

ワンKで、物がほとんどない、それでいて古いものばかりの家具。駐輪場の自転車も錆錆でボロボロ。家の外観もぼろ屋の一言に限る。

「こ、こんなとこに住んでるんですか?」

顔色から期待感が薄れていく。

そうそう、そう言う反応がいいのよ。

「すごいギャップでしょ? 余ったお金は寄付して、色々と社会貢献だってしているんだから」

と、胸を張った。

苦笑いする各々。

「ほんとに資産家?」

「そうよお。お金の増やし方なら~」

と、話す。聞き流す人と、それとなく聞いている人、熱心に聞く人など、まあ反応が別れた。そういった反応でも、今後の人生の在り方が見えてくるというものだ。

それからも色々と会話をして、合コンはお開きとなった。

何だか性と欲望渦巻く場所だって色々書いてあったけど、それはそれで楽しかったわね。合コンは狩猟場っていうのがなんとなく理解できた。

「いい経験になったわね」

一応全員と連絡先を交換したが、熱心に話を聞いていた子には取り合えず話をしてみた。

知り合いに面白い人がいるから、起業とかお金稼ぎへの興味や、好きなことがあったら色々教えるし、協力するよお、って。

まだ躊躇はあったけれど、多分乗って来るだろう。

お金持ちと貧乏を両方楽しめるなんて、まあ滅多にできないことだ。

「私はね。もっと効率的に色々なことを知りたいし体験したいの」

色々な国に行って観光だってしたし、祭りだって、ジャングルだって、スカイダイビングだって色々やってきた。物欲なんてほとんどない。体験に比べたら、ただ所有するだけにお金を使うなんて面白くないもの。

「節約した甲斐があったわあ」

次は宇宙旅行だ。

映像や文章だけでは得られない体験は何物にも代えられないもの。

私はお金を目的としてない。

手段に過ぎない。

「さて、それじゃあ宇宙旅行の準備でもしようかなあ」

手元にある余剰資金は数十億円。

それだけあれば宇宙旅行は十二分だろう。

私はそうやっていろいろなことをやり、成し、達成してきた。体験してきた。

この人生、いついかなる時も悔いなく死ねると、そう思っている。

「家族にも会いに行きたいなあ」

田舎町で住む両親。

私にかけがえのないものをたくさんくれた最愛の家族。

「まだまだパートナーは見つけられそうにないかな」

ピロンと来る、熱心な女の子のライン。

是非やってみたいですっ、という返答。

これで三百九十人目だ。

「この子はどんな人生を歩むのかな?」

これまで私に付いてきた人はみんな自分がなりたいもの、やりたいことを達成している。努力したから、好きだから、頑張って成功した。

私はその後押しを、先導しただけ。

「ふふっ、愉しみね」

スマホをポケットに入れた。

ルンルン気分で、見かけた自販機の底を探す。

財布は小銭でパンパンだ。

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