銀世界

「寒いねー」

「寒いな」

「寒いわねえ」

冬。

私たちは今、こたつの中で三人固まって一緒に温まっていた。

半分の時間が冬の季節になった今。こうして家にこもることが多くなる。もはや外に遊びに行くなんて危ないことだ。昔はスキーやスノボー、雪合戦や雪だるまを作っていたが、今ではすっかりどの地域でも銀世界が拡がっている。

「今日は休日で良かったわね」

「そうだな。こんなに寒い日に、しかも路面が凍結した道路を走るなんてまっぴらだよ」

道路下に温水が流れるのは当然のことだが、それを上回る雪の進行。窓は二重三重で、断熱材も二重以上だ。温かさを保つために家全体にエアコンの風が行くように設計もされている。

今の発電方法は風力発電だ。火力発電や水力発電は時代遅れ。ごうごうと吹きすさぶ風の力で、電機は十二分に作られている。こたつ内部の足元に取り付けられたファンヒーターも良い仕事をしてくれている。

「ねえパパ、ママ、私お外で遊びたい~」

「今は外は駄目だぞー。雪が降っていて危ないからなあ」

「じゃあ止んだら行ってもいい?」

「勿論。その時はパパと一緒に雪あてごっこだ」

「わあーいっ!」

娘が両手を上げて喜んでいた。

窓際へ寄って外を眺める娘。

振り止まぬ雪が横殴りに降り注いでおり、数メートル先の景色も真っ白で視えない。下手をすればこの家が雪で覆われてしまう可能性だってあるのだ。今は猛吹雪の時期。雪がやんで外で遊べるかは解らない。

それでも、娘が外で遊びたいという持ちを否定してはいけない。遊び盛りの年頃なのだ。何にだって興味を抱いてもおかしくない。

「それにしても、最近は特にひどい天候になっているな」

「年々地球の気温が低くなっているらしいわよ。夏になっても、雪解けが起こらないって言うほどだし」

家の暖房機能によって、今のところ家が雪に沈むことはない。溶けた雪は下水道を通って流れていく。風力発電が途切れない限り危険なことにはならない。

お金持ちは地下に家を移して生活していると聞く。

「ねえパパ、何でこんなにも雪が降るんだろうねえ」

と、窓の外を見つめながら娘が言った。

「太陽に元気がないのかもな」

「だったら私の応援で、太陽さんも元気になるかなあ」

そして、「太陽さん頑張れえーっ」と声援を送りだす。そんな元気な娘に私は微笑んだ。

「それじゃあ、ママも応援しようかなあ」

こたつから身体を出して、天井に向かって手を伸ばす娘に倣う。

「ほら、パパも」

「よし、やるか」

パパもこたつから出て、娘の真似をする。縮こまっては身体を伸ばし、を繰り返して元気を贈った。やっているうちにドンドン楽しくなってきて、笑いながら一生懸命に身体を伸ばして太陽に元気を贈り続けた。

「これくらいやれば、太陽も元気になったよね」

と、腰に手を当てて胸を張る娘。

「ああ、凛子はすごいなあ」

と、パパが凛子の頭に手を置いてわしゃわしゃしていた。

髪の毛をクシャクシャにされて、けれど愉しそうに笑う凛子。

「お返しだあ」

パパの背中に上って、パパの髪の毛をクシャクシャにしてしまった。

「ママの髪の毛もクシャクシャにするぞお」

「おおーっ」

凛子を肩車して私に向かって来る。凛子の腕をパパッと払うもパパに腕を掴まれて、凛子に髪の毛をクシャクシャにされてしまった。

「やられたあ」

三人そろって髪の毛がボサボサ。

互いに確認して笑いが零れた。

「お、雪止んできたんじゃないか?」

「え、ほんとっ!?」

パパに肩車されたまま窓際へ行く凛子。外を見ると、確かにさっきの猛吹雪に比べて雪の量が少なくなっている。

「凛子の応援が太陽に届いたのかもなあ」

「やったあ!」

万歳する凛子。

「それじゃあお外に行こっ」

「もう少しだな。もう一回応援したら雪がやむかもしれないな」

「じゃあやるう」

そして先ほどと同じ両手を高く上げる凛子とパパ。私も横に並んで一緒に元気を贈った。

「わあっ!」

そして徐々に止んでくる雪に、凛子は声を上げた。

「お、止んだな」

太陽の光がほんの少しだけ見えた。

「凛子にありがとうって言ってるのかもしれないね」

「私こそありがとう、太陽さんっ」

そして見えなくなる光。

綺麗な雪の表面が辺りを覆っている。

「よし凛子、行くか」

「うんっ。ママも行こっ」

「よし、行こうっ」

娘が元気でいてくれる。

太陽が徐々にエネルギーを失いつつある現在であっても、娘がこうして元気でいてくれるだけでも十分だ。

いずれ終わるかもしれないこの世界で、家族とともに精いっぱい生きて行こう。

そう思う。

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