第3話 五人の大律師

 修練場では、見習いの僧は簡素な袈裟けさと呼ばれる服を覆い。大法師位だいほっしいへと昇格すれば、古代の装束しょうぞくを思わせる着物をまとう事になる。


 その衣装には、けがれを祓う力があり、僅かな邪気であれば遮る事が出来る。また、風貌といった事では、民族衣装のような雰囲気ある佇まいを想像させた。


 そんな風情ふぜいかもし出してくれる衣装。男性が纏えば、凛々りりしく引き締まった風格に。女性が羽織れば、どこか妖艶で天女のような美しい印象を与えてくれる。


 そのような事から、見習いの修行僧は早く高みを目指したいと修練により一層、励むのであった。


「でも、ほんと凄いよな。俺と二つしか違わないのに、もう大法師位だいほっしいだもん」

「そんな事はないわ。早くからこの僧位になっている人達なんて、沢山いるのよ」


 伊舎那いざなが今の位を得たのは、ほんの数ヶ月も前のこと。十八歳で取得するのも困難であるというのに、なんと十七歳の年齢で僧位を得たという。それに比べ、十五歳で僧院へ入門した楼夷亘羅るいこうら無位無冠の修行僧。


 経験が浅い上に、大法師位だいほっしいの域に達するまでには四つの僧位を得る必要がある。何とも気が遠くなりそうな、一朝一夕では身につかないものらしい。


「へぇー、そうなのか。でも、伊舎那いざなは五人の大律師だいりっしに側付きしてるから、次の候補に間違いないんじゃないのか?」

「いいえ、そんなに甘くはないのよ。ここには派閥があって、この方達にも色々と事情があるの。だから、そう易々と昇格なんて出来ないわ。それに大律師だいりっしは、今の位よりも更に二つ上なのよ」


 上を目指すには、確かに実力も必要ではある。とはいえ、側付きの職務をこなしていれば優遇された扱いも可能と言える。


 そうであるなら、次の僧位も簡単に得られるのではないのか。そんな風に楼夷亘羅るいこうらは何気に問うも、思い悩むように伊舎那いざなは分かり易く説明してくれた。



 ――五人の大律師だいりっしと呼ばれる存在。


 元々は極楽の荘厳果てしなき大陸の守護者である苉头璃ぴとりが大陸の安全と衆生人々の平和な暮らしのため作られた守護する部隊。といっても、その構成は夫の苉头璃ぴとりと妻の堅牢けんろう、二人のみで大陸の安全に努めていた。


 けれども、こうした平安な世はいつまでも続く事はない。何故なら、苉头璃ぴとりは黄泉を支配者していた大天狗焔光との戦いに破れ、無念にも命を落とす事になる。


 これにより、一人残された妻は失意のどん底に落ちた……。


 やがて解隊するかに思われた大陸の守護。しかし、堅牢けんろうには生まれたばかりの子供達がいた。名は長男の沙玖羅しゃくら、次男の唖俱忎あぐに、長女の羅㻌娳らとり、次女の暁紅ぎょうこう。この子達のためにも、平和な世を築き上げるのだと、もう一度守護する部隊を作りあげた。


 こうして堅牢けんろうは我が子に武術の教育を厳しく行い育て上げる。その甲斐あってか、数年後にたくましく育つ子供達。父親の代わりに大陸を安寧へと導く役割を担う。ところが、その活動は過酷極まりなく休まず昼夜行われた。


 これにより闇夜の平和を長女に託し、四人のみで守護部隊は再結成される。さりとて、闇夜を長女一人で警護するのは非常に負担が大きく、暁紅ぎょうこうと共に闇夜を守護するようになった。そしてこの不足を補い埋めるべく、後継者として次女の息子である蘇利耶すーりあが部隊へ加わる事になる。


 このような経緯により、長男の沙玖羅しゃくらが指揮をとり活動を始めるも、過酷な任務に変わりはない。これを不憫ふびんに思う苉头璃ぴとりの親友である旃陀羅せんだら


 『共に大陸の安全に務めよう』その心意気を有難く受け取り、新たに一人を迎え入れ再構成された守護部隊。この五人により、再び大陸の安全に努める事となる……。


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